私はいよいよサークルに参加することになった。他でもない蓼丸先輩のサークルにだ。
「ようこそ俺らのサークルへ」と言って笑った蓼丸先輩の子供っぽい笑顔に、ライブ中の凛々しさは感じられなかった。とてもギャップのある人だ。
ずっと前から歌いたいと思っていたし、歌を聴いてもらいたいと思っていた。
そしてさっそく今日、私の歌声を聴いてもらうことになっていた。他の2人の先輩にも、もちろん蓼丸先輩にも聞いてもらうため、みんなの前に立つ。少しマイクを持つ手が震える。
歌う決心がついた私は、大好きな歌手の歌を、気持ちをのせて歌った。
届くように、響くように。
悲しい歌だけれど、前向きになれるようなそんな曲。いつまでも悲しんでいないでと励ます曲でもある。
そして歌い終わった時、沈黙が流れた。
歌っているときはわからなかったけど、もしかしたら相当酷かったのかもしれない。何も言われないことにビクビクしながら言葉を待つ。
すると蓼丸先輩が飛びついてきた。けして抱き着いてきたわけではなく、勢いよく手を掴まれた。蓼丸先輩の行動には驚かされてばかりだ。
「すごい!すごいよ!そんなに綺麗に歌えるなんて知らなかった!!」
子供のように無邪気に笑う蓼丸先輩に続いて、2人の先輩も大いに褒めてくれた。まだ大勢の前で歌ったことはないから分からないけど、こんなに誰かに喜んでもらえる歌はやはりいいと思った。
歌を披露した次の日。
今度は2週間ぶりに図書室で京治君と遭遇した。
そしてサークルに入ったこと、歌が大好きなこと、褒めてもらえたことを、下手くそな説明で伝えた。それでも笑顔で聞いてくれた蓼丸先輩を見てすごく穏やかな気持ちになれた。
荒んでいた心は、朝日に照らされて、輝きを取り戻した海のように清らかで。
私はここでならやっていけるかもしれないと、そう思えた。
そしたら京治君は穏やかな声で良かったね、と言ってくれた。京治君からの言葉はどんな形でも嬉しかった。
私は、まだ京治君がしつこいくらいに好きだ。話すとドキドキするけど、安心できる。ずっと話していたい。だけど、それは無理なんだろうなぁ。彼が見ているのは私じゃない。
誰か特定の人を見ているというわけではないんだろうけど、私だけを見てくれることなんて、ないんだろう。
そんな事、フラれた時から分かってる。
分かっても辛い事は沢山ある。
でもそんな事を乗り越えて生きてきているんだ。
何も辛いのは私だけじゃないのだ。
同じ国の中でも、たくさんの人が失恋を経験している。私はその中の一人にすぎないのだ。
それでも、いつか私の歌を彼に聞いてもらいたい。私はもう大丈夫なんだよって伝えられるまで強くなりたい。
京治君、私、前を向くよ。
まだ決意とは言えない意思は、しばらく胸の奥にしまっておくけどね。