季節は7月下旬。
もう少しで大学は夏休みに入る。
サークルに入って、音楽の楽しさに惹かれて、軌道に乗り始めた。サークルに行くのが楽しみになって、始まったら熱中して。京治君がバレーに夢中になるように、無我夢中で歌った。時々声が枯れたりしたけど、そのヒリヒリとした痛さも生きているという感じがして心地よかった。
その間だけは京治君を忘れられた。
そんな時だった、とある噂が聞こえてきたのは。
京治君に彼女ができたらしい。
その時は鈍器で殴られたような感覚に見舞われた。同時に私はまだ京治君を想っているのだということも知った。知りたくなかった事実に、また心がグラついた。
せっかく忘れられると思ったのに。彼女ができたと聞いて一気に絶望に近い想いが芽生えた。
噂とはいえ、2人で歩く姿を見たという人が余りにも多すぎた。私も確認したいと馬鹿なことを考えて、学内を探してみることにした。
確実に2人で歩いている保障はどこにもないのに、ただ闇雲に探した。
そして、遂に見つけた。
その時、隣にいたのは見たこともない女の人だった。
今、隣にいるのは十中八九彼女だろう。私より高い身長。キリッとして美しい顔。何をとっても勝てる部分は無くて、自分が嫌になった。事実を突きつけられ、目の前が真っ白になった。
私の気持ちなんて知らずにこちらに歩いてくる京治君。そして目があった。ここで避けるのは態度が悪いと思って歩み寄る。近づけば近づくほど私が小さな存在に思える。
京治君の彼女は少し怪訝に私を見ている。
『あ、や、やっほー!』
「あれ、久しぶり」
「京治君、知り合い?」
けじめをつけようと思った。隣には彼の彼女になった人がいる。私はもう蚊帳の外だ。私は同じ土俵に立つことさえも許されなかった。
「そう、高校の同級生」
私は同級生止まりだった。彼女にはなれなかった。私が立てなかった場所に彼女はいる。羨ましい。なんでそこにいるのが私じゃないんだろう。
『初めまして、名前っていいます』
「あぁ、同級生ね。初めまして、京治君の彼女の瑠璃奈です、よろしくね」
名前も可愛いし、言葉遣いも丁寧だ。どこか日本人離れした容姿も、彼女を良く見せている。勝てっこない。勝負する前から決まってた。
そして、彼女という単語に過剰に反応してしまいそうになった。
私は同じ人に何度失恋すればいいんだ。
『もうこんな美人さん捕まえて、隅に置けないね〜』
無理して笑ってる。本当はおめでとうなんて心から言える状態じゃない。いつもなら肘でツンツンと脇腹を攻撃している場面も、下手にできなくなった。ただ、表情がゆがむのを必死に我慢することしかできなかった。
『じゃあ、また』
もう簡単触れてはいけない人になった。想いを伝えてはいけない人。
もう2人の姿を見ていられなくなって、その場から逃げ出した。
気持ちの整理ができたなんて嘘。まだ未練が残っていたんだ。赤葦君の彼女を見ても自分の気持ちを抉ることは分かっていたはずだ。つくづく馬鹿だ。後先を考えなすぎる。
しかしまた泣いては前に進めない。
これは私にとっての大きなチャンスだ。
変化のない日常に甘えていた私への罰でもあり、戒めるいい機会。もし、彼らを心から祝福できる日が来たら、それは私が成長できた証。
いつになっても恋に溺れていては何も身につかない。将来のためにも恋を割り切らなきゃいけない。
恋なんかで将来を棒に振るうなんて馬鹿馬鹿しい。安定した職に就職して、それから相手を見つける。それでいいじゃない。
自分を落ち着かせる語句を並べて、言い聞かせる。…それでも私は京治君以上の人を見つけられる自信がない。
出会った瞬間も、今までも運命の相手だと思ってしまったのだ。馬鹿馬鹿しいというなら笑ってもいい。
中学までは惚れっぽい性格だった私が一途になったのは、赤葦君と出会ってからだ。
京治君ほど好きになれる人は現れるんだろうか。