校内で偶然瑠璃奈さんと遭遇した。
どんなに近づいても彼女が美しいことには変わりない。自分が本当にちっぽけに感じる。
「あれ、名前ちゃん?こんにちは」
『こんにちは』
今の私にとって、彼女は嫉妬の対象でしかない。こんなに余裕な顔をしていることにすら、少しイラついていた。彼女は決して悪くない。彼女を選んだのは京治君の意志だし、多分一般的にみても二人はお似合いだ。往生際の悪い私が勝手に暗い思いを抱いているだけだ。
「京治君とは高校の時の同級生なんだよね」
『そうなんです。』
「同い年だよね、タメで大丈夫だよ」
『う、うん』
姉御肌なのだろうか。とても面倒見がいいお姉さんのようだ。顔も良くてスタイルも良くて性格もいいとか、神様は彼女に何物を与えるつもりなのか。
「よかったらさ、高校時代のこととか教えてくれない?」
『京治君の高校時代かぁ』
「え、京治君って呼んでるの?」
予想外の反応だった。まさか、名前呼びに反応されるなんて。
『え?あ、あぁ!つい、瑠璃奈さんにつられちゃって!』
「そっか、なんか安心。やっぱり彼氏に自分より親しい人いたりすると不安になっちゃうから」
『だよね、うん。…普段は赤葦君って呼んでるから。心配させちゃってごめんね』
「嫉妬深い女って思うよね。でも、それだけ彼の事好きだから」
確かに彼氏に彼女より仲のいい人がいたら、私だったら絶対気分が良くない。それに、名前で呼び合う友達がいたら嫉妬してしまいそうになる。これは私の心が狭いだけなのかもしれないが。
『全然思わないよ。その気持ち…分かるよ』
「ほんと、良かったぁ。もし名前ちゃんさえよかったら、これからも京治君のこと教えてほしいな」
可愛い。恋する乙女だ。
私になくて彼女にあるもの。
それは女の子らしさだ。
『うん、私が知ってることでよければなんでも』
「ありがとう〜!」
今の私は自分の気持ちを押し殺すことしかできない臆病な人間だ。自分が情けない。波風を立てたくなくて、穏便に済ませることばかりを考えている。
「何の話?」
たったその言葉だけで心臓が跳ね上がった。会いたくない。…会いたくなかったよ。
「もう、脅かさないでよ!」
「ごめん」
彼を見つめる瞳は乙女そのものだった。彼女の中には純粋さもある。なんて可愛いんだろう。
『好きなコスメの話とか、だよね?』
「うん、そうなの!思いのほか趣味があっちゃって」
「そうなんだ」
『そうそう、あ、かあし…君には無縁の世界だよ』
「………。」
少し怪訝な顔をされた。今まで下の名前で呼んでいた人間が突然苗字で呼ぶようになると、こういう反応をされるのは当たり前だ。これからはそれにも慣れていかないと。
『そろそろサークル始まるし、行くね。じゃ、バイバイ』
「またお話ししようね」
『うん』
これ以上二人のいる空間にいたくない。
私がどんどんみじめになっていく。二人の間に入り込む隙間なんてどこにもない。私はもう、彼に手を伸ばしてはいけないんだね。
痛む胸に気づかないふりなんてできなくて、彼らと別れた後にその場に崩れ落ちた。
***
「京治君…?」
「なに?」
「具合でも悪い?」
「全然、大丈夫だよ」
「…?ならいいけど」