それだけでいい


《ワアアアア・・・!》

ステージへの歓声が波のように押し寄せて来る。眩しいカラフルなライトが四方八方から照らす。

「カッコイイなぁ………。」


テレビの中ではセンターの青髪の男が、眩しい笑顔でファンに手を振っている。


さらさらの髪に、真っ白で雪のような透明な肌を持ち、その美貌を幻想的に魅せる私の彼氏様。テレビの中に映る彼は完璧とも言えるほど容姿が整っていた。


私の彼である一ノ瀬トキヤは、最高の人気と愛を享受する新人アイドルグループSTARISHの一員。
STARISHはピッタリと揃ったキレのあるダンスと、美しいハーモニーが持ち味で、人気急上昇中である。何と言っても彼らには一人一人に個性がある。


その中で私にはどうしてもトキヤが一番目立って見えてしまうのだけど。


そしていつも思うことは、テレビの中の彼の存在が遠く感じること。私の知らない子に手を振る彼の姿を見ると心がキリキリと痛む。なんて嫉妬深い女なんだろう。別にトキヤが人気なのは今に始まった事じゃない。


貴方を狂おしく愛するばかりに毎日の不安がたまった事もあった。何度も別れを告げようと思った事もあった。

本当は私だけを見てほしいのに。

でも、いいんだ。だって今は………、


「名前」


テレビの電源を急に切られて我に返る。

トキヤに名前を呼ばれ、同時に腕を引っ張られて、背の高い彼の腕の中に私はすっぽりと収まった。頬が紅潮しているのが嫌でも分かる。


何時もは夜遅くに帰ってくるトキヤが、今日は珍しく家にいる。久しぶりの二人きりのひと時に心が安らぐ。

私は、赤い頬がばれないように言葉を絞り出した。

「なに?」

すると、彼は私の首筋に顔をうずめた。くすぐったい。

「どうしました?顔、真っ赤ですよ」


耳元で囁かれて背中がぞくぞくする。これは吐息が当たるように、わざとやっていると思う。声のする方を向くと妖艶な笑みを浮かべたトキヤの顔が近くにあった。


いつも不安な気持ちを和らげるのは、いつもトキヤに抱き締められる事と、そして名前を呼ばれる事だった。

だから、いいんだ。彼が知らない子に手を振っても、笑かけても。
その分彼はこうして私を愛してくれるから。

同じ風景を歩んで行く度、絆が深まっていく気がするんだ。