純情の行方
―――時が止まる、っちゅーのはこの事を言うのかと思った。
その時、俺はまさに時が止まってしまったかのように"息をするのも忘れて"数メートル先に佇む彼女を見つめていた。彼女は静かに本のページを捲る。「このまま時が止まってしまえばいいのに」なんて言葉はよく聞くけど、俺は15年間生きてきて一度もそんな風に思ったことなどない。
以前はむしろそんな純情ぶった夢物語をのたまう輩を完璧にバカにしている性質で、そういう台詞を女から聞けば、背を向けている事だろう。
でも、今なら謙也の従兄弟がラブロマ好きな気持ち分かった気がする。
キミハ、イッタイダレナンダ……?
俺は息をするのも忘れて、彼女の姿に見入ってしまった。
心臓がぐっと持ち上がるようなカンジがした。その直後には、身体全体が心臓になったかのように激しい鼓動がどくん、どくん、と音を鳴らす。あかん、病気か?足が地と一体化してしまったかのように動こうとしなかった。いや、むしろこのまま、ずっと立ち止まって、その子を見ていたいと思った。
そりゃあ、一目見かけただけだから、話したこともない訳だしどんな声なのかも知らない。彼女の目、耳、口、髪型、ファッション、体型、身長、指の形。特別美人っちゅーわけやないけど、とにかく目に見える部分は僕の理想の中のド真ん中を突いてきた。こんな子学校にいたんやな。
この子が例え魔女のような性格でも、または家庭環境に複雑な問題があろうとも、莫大な借金を抱えていようとも、僕は全く問題にしないでサラッと流して彼女を受け入れられる気がした。なんて壮大な話や。今の一瞬で思わず話を広げてしもた。
年はおそらく同い年。この時間帯に図書室にいるっちゅーことは図書委員か、相当な本好き。
今回ばかりは図書室に俺をパシッたオサムちゃんに感謝するべきだ。
すると、彼女がチラリと俺を見た。でもそれは特別なものではなくて、ありふれた視線だった。
彼女に釘付けになっていた俺は、一瞬にして胸がドクンっていうのわかった。なんや、今の俺。らしくない。彼女に見られていた数秒間は、顔に力が入りすぎて普通の顔ができなかったと思う。
名前もしらない彼女に変な顔を見られてしまったかもしれないという思いが、また顔を熱くした。
あぁ、どうしようか。
頭を中で、どうしたら彼女と関わりをもてるか必死で考えた。正直に
「一目惚れしてしまいました」
と言おうか。
うーん、なんかナンパ野郎にしか思われなさそうだからこれはアカン。
じゃあ、小さなメモに
「可愛いですね、友達になってください。」
いや、普通に考えてこれもアカンやろ。なんで女々しい事しか思いつかないんだ。
えぇーい。もうどうにでもなれ!
結局思考を巡らせても、彼女に話しかける方法は思いつかなかった。俺はスタスタと彼女のいる方へ歩みを進める。心臓はバクバクだ。
「…な、なぁ。」
妙によそよそしい。男のくせに気持ち悪いとか思われていないやろか。
「はい?」
以外や以外。彼女はすんなり視線を俺の方へ向けてくれた。間近で見る彼女の目力は強い。
「…お友達からはじめてくれへん?」
いきなりはおかしいやろ!今ので絶対ひかれたわ。やってしもたわ。初対面のお友達的にも可笑しい。もう頭が混乱して何を言えばいいのか分からん。
「お友達…、ですか………。」
「すまん、なんでも…」
「わ、わ、私も、お、お友達に、なりたいです!」
…、あぁ、まぁ結果オーライってことで。