雨のポリリズム
今日は雨。
通り雨ならいいが、どうもそうは成らないだろう空模様。厚い雲はびっしり空を埋め尽くし泣いていた。五月下旬、平均より少し早めの梅雨入り。空は雲に覆われ、洗濯物がなかなか乾かない時期が今年もやってきた。空から大量の雨が地面に叩きつけられる。
私は降りだした雨を眺め、下校する他の生徒たちの邪魔にならないようにしながら、ぼんやりと物思いにふけっていた。私には待っている人がいるのだ。
朝の天気予報では、今日の午後には一時的に雨の止む地域はあっても、基本的に一日中雨だそうだ。きっと例に漏れず一日中降っているのだろう。
梅雨入りは数日前にアナウンサーが報じていた。それを聞いた母は露骨に嫌そうな顔をしていた。それもそうだろう。何せ家事に携わっていない人でさえ、大なり小なり嫌な顔をするのだ。家の仕事を一手に引き受けている主婦である母からすれば、さぞ鬱陶しいのだろう。でも、彼にとっては嬉しいことのような気がする。だって水が大好きだから。……でも、雨が降っていては大好きな水泳は外で出来なくなっちゃうけどね。
かく言う私も、去年までは梅雨と聞くと少し憂鬱だった。暗いし、じめじめするし、傘が無いと移動もままならないし。車がはねた水溜りの水にかからないよう、注意しないといけないし。何より湿気で髪はぼさぼさになるし。毎年この季節が来ると私までジメジメした気持ちになる。
だから、梅雨はあまり好きではなかった。
そう、好きではなかった……。
今でも梅雨の嫌な点を思い浮かべればキリがない。でも今年はそんなことが気にならなくなるくらいに、梅雨を嬉しいと感じてしまう。
友達に理由を話すと、適当にあしらわれた。まあ、ある意味当然の反応をされたかなとも思う。何せ、惚気以外の何物でもなかったのだから。
思い浮かぶのは恋人のハル。
その整った顔が水に向ける時の、私の大好きな表情。
「それにしても、ハル来ないなぁ……」
「悪い。」
顔の熱さをごまかすようにつぶやいただけの言葉に、予想していなかった返事が返ってきた。
と同時に、後ろからぎゅっと抱きすくめられた。
「ビックリした!」
「……帰るぞ」
身長的に見て、あるいは状況的に見て、ここは男が傘を持つべきと言わんばかりには大きめの傘を開いた。入れって意味のようだ。一瞬戸惑いながらもハルの持つ傘に入る。
「……最近ずっと雨だね」
「あぁ。」
「ハルは梅雨、嫌い?」
「俺は好きだ」
「私も、最近好きになったよ。だってほら」
言って、一瞬間を開ける。
その際にくるりとハルが傘を持っていない腕の方に移動する。そしてその腕に抱きつき、私より幾分か高い位置にある先輩の顔を見上げる。
「こうやって、ハルに甘えられるから。…だからね、もう少しこうしてたいな。」
なるべくさらりと言ったつもりだけど、きっと抱きついた腕から心臓が破裂しそうなくらいドキドキしているのが伝わっているに違いない。こうやって先輩にくっつくには、こういう言い訳がないとまだ恥ずかしいのだ。
すると、突然ハルは傘を車道側に傾け始めて、誰にも見えないようにと私のおでこに軽くキスをした。唐突だったので思わず額に手を当てる。その時見たハルの表情はきっと私と同じくらい真っ赤だったに違いない。