その笑みを待っていた
僕には好きな人がいる。
彼女は目立つような性格ではないが、僕にとってはかけがえのない存在だ。
そして、僕が好きなのは柔らかい陽だまりのような可愛らしい微笑み。
小首をかしげながら振り返る仕草。
僕はそんな彼女が好きだ。
君が笑っていれば僕も笑顔になれるし、手を繋いでいれば凄い嬉しくなるし。
見つめられると抱きしめたくなるし、 一緒にいるだけで幸せな気持ちになれるくらいに好きだって言い切れるんです。君のことを好きだって言っている他の誰よりも好きだって言い切れます。
「テツヤ君!お待たせしました」
目の前の女性が僕の名前を呼ぶ。
「名前さん、有難うございます」
「いいよいいよ!喉乾いてるでしょ?」
そう小さな声で部屋に入る彼女は、高校から帰って来たばかりで、着替えていないらしい。高校指定の制服を身に纏い、再び部屋にやってきた。両手には、麦茶の注がれたコップの二つ乗ったお盆を持っていた。
今日、僕と彼女は勉強会という名目のお家デートとやらをしている。2人の予定が久々にあったこともあってか今日は息抜きにもなる。
座ってそれをテーブルの上に置く。部屋の中央に配置されたテーブルに向かい合うように座る二人。でも、僕が例えジッと見つめても中々視線は合わない。
「そんなに見つめられると……恥ずかしい、な」
どうやら僕の視線にはとっくに気づいていたらしい。彼女は視線を泳がせて困ったように笑った。彼女が僕にくれる反応がいちいち新鮮で、もっと色々な表情を見たいと思ってしまう。会話も弾まずに、困ったであろう彼女は自ら口を開いた。
「そろそろ勉強しよっか。」
そう言って立ち上がると、勉強道具を取りに行くために部屋を出て行こうとした。すると僕はとっさに彼女の腕を掴んでいた。そのまま僕の方に引き寄せると、彼女はバランスを崩して潔く倒れこんできた。スッポリとはいかないけど、僕の腕に収まった彼女は耳まで赤くしていた。
「もう少し、そばにいてください」
「……うん」
突然のことに驚いていた彼女は、僕を控えめに見上げながら頷いた。
「好きです。名前さんのこと、大好きです」
「……うん。私も、テツヤ君が大好きだよ」
僕に好きだと言われたことを一拍置いてから理解して、その直後、花開くように微笑んだ。
その顔は、僕が好きな笑顔だった。