大事な人


私の嫌いな行事がやってきた。名を聞くだけでもイヤになる"マラソン大会"が…。

女子は男子よりも1時間早くスタートするんだけど、当然のことながら途中で追い抜かれてしまう。…それはいいんだけど、問題は自分の体力だ。

小さい頃から病弱で、何もするにも体力がなくて寂しい子供時代を過ごしたことがある。でも、そんな私に光の手を差し伸べてくれたのは幸男君だった。彼は幼なじみと呼べる存在で、同い年なのにいわば私のお兄ちゃんのような人だ。

幸男君が私をいろいろ気にかけてくれたお陰で、今の私がいる。あの時色々話しかけてくれなかったら、私は一生根暗なままだったかもしれない。ある意味で幸男君は私の人生の恩人だ。

そんな幸男君は目を合わせれないほど女の子が苦手で…。だから幸男君と気兼ねなく話すことができる私は、少し優越感がある。

「ヨーーーイ、ドンッ!」

始まりの合図で一斉に女子がスタートする。

最初こそは私も普通に走っていたけど、まだ半分も行っていない所で体力は激しく消耗していた。体に重りが乗っているみたいに重くなって前に進むことが辛くなってきた。息も粗くなってくる。そろそろ限界だと思って、途中まで一緒に走っていた友達に先に行くように伝えると、友達は渋々先に進んで行った。これで足手まといになることはないと思うけど……。

こういうときは自分の体力の無さを痛感する。周りの子たちは順調にゴールに向かってるんだけどな。

…どうしよう息が苦しい。目に見える光景が少しずつ霞んできて立ち眩みがする。咄嗟に頭に手を置き少しでも痛みを和らげようとするも、一向にやむ気配がない。

こうしてウダウダ悩んでいるうちに男子の先頭集団がやってきた。その中には予想していた通り幸男君と、隣には最近よく見かける黄色い髪の一年がいた。
根っからのスポーツマンの彼と私では体力は天と地ほど差がある。出来ればこのまま上位をキープしながら走って行って欲しいなぁ、と思ったり。

彼との距離が5Mになった時、目があった。頑張れと心の中で乞う。幸男君は通り過ぎてそのまま走って行くかと思ったら、走る勢いを変えて向きを変えてこちらに向かってきた。

「う、そ、なんで……。」
「やっぱりな…。どっかで休んでると思ったよ。……ほら」

ほら、と言って私の方に背中が向けられた。

「え、?」
「乗れよ。運んでやる。」
「…迷惑かけてごめんね。せっかく先頭で走ってたのに……。」
「謝るな。俺がやりたくてやってんだからよ」
「…ありがとう」

生温い風が頬をかすめる。私は次々と走って来る男子の目を気にしながら幸男君に体を預けた。
そして、私なんかよりも大きい背中に愛しい気持ちを乗せながら、落ちないようにとギュッとしがみついた。