混線する不協和音
私の住んでいる所は煌帝国の中部に位置する。消して治安のいい所とは言えないが、スラムの町ほど飢えてはいない。言わばどこにでも存在する普通の町だ。
そこで私は父、母、そして弟と毎日を過ごしていた。凄く楽しい日々だった。毎日、笑いあっていた。
だが、母に思わぬ病魔が襲いかかった。普通通り生活するのにはなんら損傷はないが、時々目眩などの症状があるらしい。この病気を治すことが出来るのは天才魔導師様だけと聞く。
が、うちには天才魔導師を雇えるほどのお金は存在しない。父が毎日せっせ、せっせと働いたお金だけでは足りないのだ。
そんな時、私の日常が変わる出来事が起きたのは、母親が病気に罹った2ヶ月後だった。
「皆の衆!よく聞け!煌帝国の第一皇子がこの町を視察しにきたぞー!」
今回で第一皇子は5度目の視察だ。
何故か第一皇子である紅炎様は異常にこの町の視察にやってくる。
なんでも嫁探しでもしているのではないかと噂されている。それを信じきっている、町の女たちは急いでおめかしに向かった。我こそは第一皇子の嫁になるものだと気合を入れて厚化粧してきた者もいた。
私は母の看病をしたいが為に化粧なんてしていられないし、第一皇子の嫁だからなんだって言うんだ。
確かに紅炎様の妻になったら十分なお金は手に入るかもしれない。それは重々に承知しているのだが、どうも第一皇子と聞くだけで気が引ける。だいたい私みたいな平凡な娘が目に止まるはずもない。
そう思いながら外に整列しに行く。整列は、紅炎様がこの町を通り過ぎるまでずっと行われる。整列をしたとき、紅炎様が自分の目の前を通る時には必ず地に跪いて、礼をしなければならない。これぞ身分の差である。
私は5回中1回しか整列に参加したことがない。つまりは一度しか第一皇子の顔を見ていないということだ。と言ってもハッキリとみた訳ではない。跪いていたため、紅炎様も私と同じように顔は見ていない。
暫くして、とうとう皇子が来たということで一斉に片膝を着き、頭を下げ、その前で右手で握った拳を左手で包み込む。その前をスタスタと第一皇子様が歩いていく。そしてそのまま私の前を過ぎていく…ハズだった。
「やっと見つけたぞ。」
かの人は私の前で立ち止まり小声でボソリと何かを呟いた。
私はこの方を知っている。紛れもない、我が煌帝国の第一皇子である練紅炎様その人だ。その冷酷な瞳からはなんの感情も見て取れない。噂に聞く通り冷徹な人なのかもしれない。
「お前、歳は幾つだ?」
「……20です」
刺々しく問われた質問に答える。なぜ、私の前で止まる!私の体は強張って、よりいっそう頭を下げる。
「ゴホッ……、ゴホッ………。」
「大丈夫!?お母様!」
私は紅炎様が目の前にいるのにも関わらず、隣に整列した母の方を見てしまった。これは無礼極まりない行為である。
「ほぅ…。お前の母は病を患っているのか…。」
「…はい。」
紅炎様は自慢げに髭を触りながら、何か思考を巡らせている様子だ。
「いいか、一度しか言わぬから良く聞け。……母を救いたくば俺の女になれ。」
「………え?」
「お前に拒否権などない。」
もちろん言葉が聞こえなかったのではない。ただ言われたことが信じられなくて口をポカリと開けるばかり。
「分かりました……。紅炎様の女にしてください。」
「分かれば良い。今すぐ俺に連いてこい」
「はい。」
お母様、お父様、そして可愛い弟よ。
私はどうやら、第一皇子の女にされてしまったようです。