頼ってもいいですか?
ある放課後の出来事。
空はよく晴れていて、空気もぽかぽかと暖かい。少し身体を動かせば汗が滝のように流れてきそうな春の日だ。
「ねぇ、これ以上宮地君に近づかないでくれる?」
あぁ、とうとう私にも呼び出しされる日が来たのかと呑気に考えていた。勿論の事ながら、呼び出しを受けた場所はひと気のない校舎裏だ。
「それは嫌です」
「……っ生意気…!」
私の気持ち正直に生きていて何が悪いと言うのだ。私と宮地先輩は恋人同士だから、私が彼から離れていくということはまずない。あるとしたら、その時は彼が私に愛想を尽かした時だけだ。
それにしても何というベタな展開。ベタ過ぎて笑える。こんなこと今の時代にされるんだ。
モテモテの宮地先輩と付き合うのだったらいつかはこんな事があるとは思っていたが、実際こうして呼び出しを食らうと精神が揺らぐものだ。何と言っても私を見る視線が鋭くて痛い。
「私は宮地先輩の事が大好きです。好きという気持ちは貴方達に絶対負けないです」
私はなんて生意気な後輩なんだろう。先輩に対してのこの物言い。
私が先輩の立場だったらイライラすること間違いなしだ。現に目の前の先輩の表情がさっきよりもずっと怖い。それでも、私は真実を言うことをやめなかった。
すると、丁度いいタイミングで遠くから話し声が聞こえてきて、この状況を見られてはいけないと思った先輩方は渋々その場を後にした。危なかった………。きっとこのままだったら、散々言われた挙句ほんの少し痛ぶりつけられていただろう。
「………苗字!」
「宮地先輩……。」
そこへ走ってきたらしく、汗をかいた宮地先輩が現れた。先輩は白馬の王子様のような容姿だから、まるで私がお姫様になったかのような感覚に陥った。
あぁ、何処までベタな展開を貫くのだろうか。
「お前…、何かされたか?」
多分宮地先輩はさっきの一部始終を見ていたのだと思う。彼がここに駆けつけた理由は、恐らく誰かに私が呼び出されたと伝えられたから。そうでなきゃ受験生で暇のない宮地先輩がここにいるはずがない。
「いえ、あの大丈夫ですから、今は一人にしてください…。」
なんて可愛げのない私。私は肩をすくめて苦笑した。
「んな、泣きそうな状態のお前を放っておけるわけねぇだろ!」
響き渡る怒号。この上なく整った顔に怒りの表情を浮かべて、2歳年上の先輩は私を見下ろしていた。私は驚いて肩を上下にビクリと揺らした。普段話している時も怒鳴ったりはするものの、ここまで怒鳴られたのはほぼ初めてと言ってもいいだろう。
「そんなに俺は頼りないか?」
「いいえ!先輩はとっても頼りになります」
「……だからこそ心配をかけたくないんです。」
「そう思ってんだったらいつでも俺を頼れよ」
そう言って私を優しく包んでくれた。先輩の優しさに触れて、涙腺が緩んだ。
泣き腫らして、目が真っ赤になった私の唇にキスを落とされたのはこのあとすぐのこと。
その日以来、私が呼び出しをくらう事はキッパリとなくなった。愛しい宮地先輩が何かしてくれたのだろう。頼りにならないなんて、口が裂けても言えない。