今を慈しみたいの
青い空には雲が一つもなく、天気は言わずもがな快晴である。
海沿いで恋人の七瀬遙と一緒にいた。
私と彼とは5年前から付き合い続けている。お互い十代後半の時から交際し始めて、今に至っている。
5年というのは、実にあっという間だ。交際しているとはいえ、同棲しているわけでもない。ただ、今も絶えず互いの部屋を行き来して過ごしている。と言ってもハルが私の家に来ることは滅多にない。大抵は私が彼の家に行っている。
その日は朝早くに海岸で海の彼方を見つめながら、肌にそよ風を受け寛ぎ続けていた。私はお気に入りのサマードレスを着ていて、彼の方はなんともラフな格好。私たちは何気なく海の遠くを見つめる。
5年も一緒にいたのだから、互いのことは知り尽くしてるつもりだ。私もハルのこと全部知ってるだろうし。いいところも、そうじゃないところも。そうじゃないところを具体的に言うとするならば、彼は異常に鯖や水が好きだということくらいだ。
私が鯖や水と天秤にかけてどちらを取るのかとハルに問えば、いい勝負をするか、負けるくらいの好きさ。だから、ハルに好きになってもらおうと色々なことをしてきたつもりだけど、未だにその溝は埋められていないだろう。
だって、ハルは目の前にある綺麗な海を心底慈しむように見つめているんだもの。こんなの勝てっこないじゃない。でも、私以外の人間に負けるよりは数倍マシかもしれない。
「どうした名前。」
海を見ていたはずのハルは、その青くて綺麗な瞳を私に向けていた。
『ハルはこの世で一番大切なものは何?鯖…、水…?』
私には恥ずかしすぎて自分を選択肢に入れる勇気がない。でも、これは自分なりに賭けに出たつもりだ。誰だって好きな人の一番になりたいという願望はあると思う。
「確かに俺は水や鯖が好きだ。
でも、…それ以上に名前が好きだ。」
『ハルゥー…!』
私は我を忘れてハルに抱きついた。それを無言で受け入れてくれた。
太陽は昇り始めていた。美しい朝日が海辺から私たちまでをも照らす。ゆっくりと朝焼けを見出した。その光景を綺麗だと思いながら。そして彼は私を抱き寄せ、口付けた。
互いにしょっぱさはあったのだが、それも自然だ。何せ海にいて絶えず風に吹かれているから、風の中にある潮が口に付いてしまっていたからだ。
二人で過ごす真夏の清々しい朝と、水平線上に昇ってくる太陽をずっと見つめながら。
まだお互い青い。そんな青い色のまま、ひどく蒸し暑い夏を二人で送った。
私は貴方と見たこの綺麗な風景を忘れることはないだろう。