容赦なんてできない
"私のこと好きですか?"
そう素直に鬼灯さんに尋ねられたらどれだけ楽になれるんだろう。望んでいない回答が来ることが怖くて、私は聞けずにいた。
「ねぇ、あんたたちってさ、本当に付き合ってるの?」
私の事を何でも言える数少ない相談相手のマキちゃんが言った。
今日は彼女が仕事帰りに私の家に寄ってくれ、それからしばらく話を聞いてくれている。彼女もアイドルという職業柄、忙しい身なのに私の話を親身になって聞いてくれる。こういう優しい彼女だから私のことを安心して相談できる。
「…うん?」
「なんで疑問形なの!?」
首を傾げる私に、マキちゃんはため息をついた。
マキちゃん付き合ってるかどうかなんて私の方が聞きたいよ。
私の彼氏である鬼灯さんは閻魔大王の補佐官で、私はなんの取り柄もない一般人だから。釣り合っているなんて口が裂けても言えない。二人並ぶと彼の方が輝いて見えるのは当たり前の事で…。
好きになったのは私。
告白ももちろん私。
「付き合ってください」
顔を赤くして言った私に、鬼灯さんは「いいですよ」と応えただけ。彼には「好き」だと言われたことがない。付き合って2カ月になるのに。だからきっと付き合ってないんじゃないかな。
多分、これはただの私の片思い。でもそれでもいいって思えるようになってきたんだ。鬼灯さんを独占できるなら、それで。
私は彼と一緒にいられるだけで、優しくしてもらえるだけで、本当は幸せなんじゃないだろうか。
それ以上何かを求めるなんて贅沢な事なのかもしれない。でも、それじゃ全然愛が足りないと思うのは私の勝手な我儘なんだろう。
「…名前、大丈夫?」
「…どうして?」
「なんか、切なそうな顔してるからよ。」
鬼灯さんのこと考えすぎて、辛くなったのが顔に出ていたみたい。マキちゃんの顔が「心配」って言っている。ごめんねマキちゃん。いつも、心配かけてばっかりで。
「すみません、名前さんいらっしゃいますか?」
ウダウダと話続けていると、低くて野太い敬語が家の玄関の方から聞こえてきた。
「あら、鬼灯様が来てくれたんじゃない?あ、そう言えば私これから用事があったの!」
「マキちゃん!ごめんね、話に付き合わせちゃって…!」
「ううん。いいのいいの!その代わり私が悩んでたら助けてね」
ウィンク付きのその言葉に何度救われたことか。ありがとうマキちゃん。
そうしてマキちゃんと入れ違うように入ってきた鬼灯さん。
今日もカッコいいなぁ…。…じゃなくて!
「どうしたんですか。今日はやけに静かですね。」
「えっ、そうですか。」
「悩みがあるなら聞きますけど」
入ってくると同時に鋭いところを聞かれた。
ここで正直に話して嫌われないだろうか。私に愛想を尽かすだろうか。マイナスの感情ばかりが脳裏を駆け巡る。でも、ここで何かを変えないと、一生何も変わらないまま。私は遂に彼に正直に話す決意をした。
「私、鬼灯さんから好きって言ってもらったことないなって思いまして…」
「もしかしてそんな事で悩んでたんですか?」
私にとっての重大な悩み事がそんなことって…!
「では、一度しか言わないので良く聞いてください。
…これから先、ずっと私の側にいないと容赦しませんよ」
そう言われたから、嬉しくて思わず鬼灯さんに飛びついた。
突然の私の行動に驚いて、やれやれと言いながらも、鬼灯さんはちゃんと私を受け止めてくれる。そして、ギュッと力を込められた。少し苦しい位の抱擁。
その痛みさえ、嬉しくて私は口元を綻ばせた。