存在しないもの
この世には神様は存在する。
そう信じていたのはいつの時からだっただろう。
毎日のように神前に両手を合わせて願い事をした。どんなに願っても叶わない願い事だってあった。
当然、神様がいるという根拠なんてないのに訳もなく信じ切っていた。
雛見沢では月の明かりを頼りにするくらいだから、当たり前のように空に浮かんでいる月。
今夜はその姿は何故か何倍も恐ろしく感じる。
木々の合間を、ざわめきが駆け抜ける。
同時に私の意識は研ぎ澄まされていく。そのせいか、感情がいつも以上に高ぶっていた。
怖い…。怖い。
いつもは優しく、柔らかい月の明かりでさえも私をどん底へと突き落とす。それも、月によって照らされる古手梨花によって恐怖心へと変化される。
今の彼女の存在そのものが怖い。悍ましいと感じてしまう。
彼女が真面目な顔をして、腰が抜けて立てない私を凝視していた。その顔に表情は読み取れない。ただ分かるのは、その微かな表情が私への怒りを表している事のみ。
彼女はいつからこんな人になったのだろうか。
私の知っている、笑顔が可愛い古手梨花とは正反対とも言える凍りついた目には恐れ慄く私の情けない姿が映し出されている。
私は、彼女に何をした?
「…ねぇ、私…、梨花ちゃんに何か、……した、かな…?」
「何って…覚えてないのです?」
身の覚えもないし、梨花ちゃんの気に障る事は一切していないつもり。
「覚えてないよ…、ねぇ、だから」
離して、そう言おうとした時だった。
「………いちいちうるさいな。」
口調が変わり、声も一段と低くなった。彼女はもう私が知っている梨花ちゃんじゃない。まるで…、何者かが乗り移ったかのような…、そんな感じで光りを失った目。冷徹な瞳には感情は存在するはずもない。
「生憎…」
そして彼女は言葉を続ける。
「この世界に敗者はいらないの」
彼女は不敵に笑った。悔しいがその姿は後ろの月に映えて幻想的に見える。
でも…私が何をしたというの?
私が………一体何を。
次の瞬間、電撃が身体中を駆け巡るような感触に陥った。そして走馬灯のように思い出も駆け巡る。
…あぁ、思い出した。
ショックの余り忘れていたけど、そうだ確かあの時私は彼女の大切ものを奪ったんだ。
私は梨花ちゃんの大切な仲間たちを殺したんだ。
だから彼女は絶望と憎悪の入り混じった視線で私を見てくるんだ。
今までの彼女の行動の全てが繋がった。
大事な記憶の部分だけ綺麗さっぱり欠落し、自分の都合の良い方へと進んで生きてきた。
私は梨花ちゃん……、いいえ、梨花の幸せを奪ったの。
そうね、これが報いだわ。
「地獄に堕ちなさい」
この瞬間、神様は存在しないのだと走馬灯のように駆け巡った。
私は存在しないものを信じていたのだ。
なんて無駄な人生だっただろう。
無意味な人生を過ごした私に生きていた証などない。
ただ灰のようになって殺されるだけなのだ。目の前の梨花の手によって。
あぁ、最後にこの醜い私を…誰か、…見て。
結局、私が最後に信じたのは一体何だったのだろう。