謝りたいだけ
彼女が俺を好いてくれているのは分かっていた。
俺も、もちろん彼女のことが好きだった。でも、付き合った後の関係が崩れる事が怖かったり、自分が臆病だったせいか告白なんて長年出来なかった。
「ねぇ、真琴。ちょっと話があるんだけど…いい?」
赤面する名前の顔を見て、あぁこれから告白されるんだと分かった。分かりたくなくても分かってしまった。
「ごめん。今日はこの後用事があるから」
「あ、邪魔しちゃってごめんね」
謝るのは俺の方だ。
好きな人に嘘をついてしまった。本当はこの後に用事なんて一つもない。
ただ告白されるのが怖くて、通じ合う事に違和感を感じて、そして、俺の心に余裕がないせいで彼女の本当の気持ちには目を向けようとしなかった。
「また、今度でいいかな?」
「ううん、なんでもないの。」
その時、名前がどんな思いで俺を見つめていたのか分からない。今にも泣き出しそうな空は彼女の気持ちを表していたのだろう。
だから、俺がついたこんな嘘のせいで彼女を失ってしまうという未来は少しも予測できなかった。
その日、名前が足を滑らせて川に落ちたと聞いた時には驚いた。
目撃者によると、彼女はボーッとしながら空を見つめて足元を見てなかったから川に滑り落ちたらしい。知人から聞いた話でもここ最近の彼女は上の空だったようだ。
すぐさま川から引き上げられ、病院に運ばれた名前には見るも無残な傷跡が無数に残されていた。今は生死の境にたっている。
「頼む…、頼むから、逝くな…!」
ベットに横たわる彼女の手をギュッと包み込んでそう呟いても、ピクリとも動かない。
結果的に言うとこの日から5日後に彼女は亡くなった。
全て、全て俺のせい?俺があんな嘘をつかなかったら名前は…。
そう考えついた日から、まるで本体がない蝉の脱け殻のように過ごした。
ただただ、水のように透明に生きながら。
あの時、俺がちゃんと名前の目を見ていたら運命は変わっただろう。
だからこそ、俺は人の目を、真実を語る瞳を見ることが怖くなっていた。
きっと、これからもそうだ。
"ありがとう"と彼女にいくらでも言うことはできるけど、もし、また彼女に会うことが出来るんだったら真っ先に伝える言葉。それは好きだ、でも愛してるでもない。
そんな事で報われるわけじゃないのは分かっているけど、俺は心から彼女に謝りたい。