夢の邪鬼と海の王様


私とハルは去年も、一昨年もこの海に来ている。時期が時期なだけに相変わらず人が多いが、それでも私はこの海が気に入っていた。なぜかと問われれば明答はできないだろうが、とにかく好きだ。べつにサーフボードを片手にとか、ビーチパラソルで涼みたいとか、そういうのが目的じゃない。

海の蒼は空のそれを映したものだと聞いたことがある。ただ単に澄んでいるだけでは説明できないから、そんな理論で納得してみる。水面を撫でるだけの波は、寄せて、返して、また寄せて、同じことを繰り返す。飽きないものだと思ったが、海は思考回路をもたないということが当たり前だ。


海はこんなにも綺麗なのに、私の方はどうだろうか。寸胴。だたその一言に尽きる。周りのお姉さん達は自慢のボディをひけらかしている。私は隠せる所は全て隠して彼の到着を待つ。ハルはまだ待ち合わせ場所に顔を出していない。

こんな色気もない体を見たらどう思うだろうか。周りのお姉さん達の事とかみてるのかな…?
いやいや考えすぎ……!ハルのことだし、海に来たら真っ直ぐ海に行くはずだ。

「…遅いなぁハル…」

にしても遅すぎる。男のハルの方が着替えるのが早いはずなのに一向に来る気配がない。もしかして、あの容姿だし逆ナン…、ってこともありえそう。あぁ、遅い、遅いよ。探しに行ってみようかな。

「どこに行くんだ、名前」
「……ハル!」

私がハル探しの旅に出ようと立った時に、声をかけられた。その主は紛れもないハルだった。

「何処に行ってたの?」
「先に泳いでた」

ハルらしい理由だ。取り敢えずは安心した。でも私の本当の悩みは解決していない。今すぐ解決できる問題ではないのは自分が一番分かってる。


「なんでまだパーカーなんだ。泳がないのか」
「え、あ……、まだいいかなぁって」
「泳がないとつまらないだろ」
「そうだね、せっかく海に来たんだし…!」


えぇい、もうヤケクソだ。こんな体を見てくれる人なんて誰もいないんだし、いっそ思い切って脱いでみよう。私は恐る恐る、なんて恥ずかしい感情を捨てて潔くパーカーを脱いだ。

それでも脱いだ後の羞恥心は否めないため、さり気なく露出している肌を隠す。

「やっぱ、ダメだ。もう一回着なおせ」

分かっていたよ、私がどれだけ寸胴かってことくらい。でもこう改めて言われるとちょっと寂しくなっちゃうよね…。来年のためにもっともっと痩せようかなぁ…。ダイエットは明日にでも始めよう。そう思いながらパーカーを着直すと、突然ハルに抱きしめられた。

「え、ちょちょ、ハル…!ここみんな見てるよ…!」
「構わない…。…お前を誰にも見せたくない…。」

聞き間違いでなければ、天に昇天してしまうほどの嬉しさだ。

「今凄く幸せ…!」

声に出して喜びを表現すると、ハルは抱きしめる力を弱めた。その隙に見た彼の表情は太陽に照らされ少し笑っていた気がした。

単語
海