寒さを忘れる2人の魔法


「さみ……!」

白い息がふわっと広がり、瞬く間に消えていく。

幸男君が冬を好きじゃないことくらい知ってる。だって口癖のようにそう言うから。それに夏生まれだし、どちらかというと夏が好きそう。

「寒すぎだろ。早く春になんねぇかな」

幸男君はそう言って空を見上げる。そして雲のない寒々とした青い空を見て、また、そう言う。

「そうだね…、なんか温かい飲み物飲みたくなってきたなぁ…」
「そこの自販機でなんか買ってやるよ」
「え、いいよ!自分で買うから」
「ちっとは俺に甘えろよ」

思いもよらぬ言葉を言い出すものだから、危なく呼吸を止める所だった。ついこの間まで一緒に帰ることを恥ずかしがっていた幸男君が、女子と話すのが苦手な幸男君がまさか"甘えろよ"と囁くなんて。正確に言えば囁かれてはいないけど。

自販機から音を立てて出てきたココアを幸男君が手にした。当然のことながら彼から渡されたココアは温かい。それを笑顔で受け取って、言う。

「じゃあお願いします…!」
「んで、どれにすんだ」
「んーっと…」

自動販売機に来る前の決定事項はあったかい飲み物を買うこと。それ以外は何も決めていなかった。どうしよう…、コーンポタージュは最後までコーンを食べることは難しいし、コーヒーはちょっと遠慮しておこう。こうなってくると残されたのはココアで、私はココアをお願いした。

「ほらよ」
「おぉー、あったかい」
「良かったな」

貰ったココアを早速軽快な音を立てて開ける。そして少し匂いを感じ、温かさを身に染み込ませながら啜る。

「はあ、落ち着く〜。幸男君は要らない?ココア」
「俺は大丈夫だ。さっき部活終わったばかりだからな」
「でも、寒くない?」
「あ〜、んじゃちょっとだけ」

そういった幸男君は私の方を向いて、音も立てずに唇を重ねてきた。あまりにも突然の出来事にただ呆然と立ち尽くすことしかままならず、そんな私から一瞬で間合いを遠ざけた幸男君は照れたように言い放った。

「早く行くぞ…………!」
「う、うん!」

それは溶けた魔法のように甘い時間だった。

単語
マフラー、ココア