遠くで聞こえる幸せ


「皆で花火行きたい!」

そう提案したのは、先ほどまで私と話をしていた日向君だった。部活終わりでも相当元気いっぱい。

「来週町内の祭りあるし、部活終わりに皆で行くか!」

こうして私たちは部活単位でお祭りに行くことになった。年々花火も屋台もでるそのお祭りに、子供の頃はよく参加していたものだ。最近は勉強とかが忙しくて行けなかったのが現状。久しぶりに行くお祭りに、この歳になって喜んでいる私がいる。

お祭りはいつになっても楽しいものだ。部活も終えて、さっそくお祭り会場へ向かう。

「楽しみだねー、日向君!」
「おう!わたあめー、肉、あとかき氷も!」
「お前らガキだな」
「煩い影山!」
「ガキじゃないもん!」
「ほらそうやってすぐムキになるとことがどう見てもガキだろ」

なんと失礼な!私は頬を膨らませて怒る。これでも影山君と同い年ですけど!

「お前らねぇ、喧嘩はやめなさい」
「すみません、大地先輩!」

バレー部でお父さん的ポジションにいるのが大地先輩。差し当たって菅原先輩がお母さんってとこかな。いや、逆でもいけそう。どんどん歩いていくと、ようやくお囃子の音が聞こえてきた。

夏だから日が落ちるのが遅く、立ち並ぶ屋台の明かりが煌々と辺りを照らしている。せっかくのお祭りだから浴衣とか甚平とか着たかったかなぁとぼんやり思いながら、なんの屋台があるのかと見渡してみる。ふと、奥の方にある屋台の看板に目が止まった。

「あっ、ヨーヨー釣り!」
「ちょっと、勝手に行かないでよ…」

そう口の中でだけ呟いて、真っ直ぐにその屋台を目指す。お目当ての屋台の前で立ち止まり、色とりどりの水風船が浮かんでいる水槽を覗き込む。

「何、まさかこれやりたいの?」
「なんか苗字らしいなぁ」

私に追い付いた月島君と菅原先輩が横に並ぶ。月島君は呆れたように私を見た。

「うん…でも私が取るの下手くそだからなぁ…」
「俺も取れるかわかんないけど…すみません、ヨーヨー釣り一回お願いします」
「菅原先輩!頑張ってくださいっ!」
「一回、300円ね」

気だるげなおじさんの声が値段を告げる。私が何もわからずに見ている前で、彼は財布から小銭を出しておじさんに渡す。代わりにおじさんは、糸の先に釣り針のついたものを「はいよ」と言って彼に渡している。菅原先輩は自信がないといいながらしっかり水風船をゲットしていた。

「これ、やるよ」
「えっ、いいんですか…?」
「いつもお世話になってるからな」

輪ゴムをはめた左手の中指の先で、菅原先輩から貰った白い水風船が揺れている。なんでこんなスマートに振る舞えるのかが不思議だ。

ヨーヨー釣りを終えてから、皆で立ち並ぶ屋台を見て回った。特に何かを買うわけでも食べるわけでもなく、ただただお祭りの只中でその雰囲気を楽しむという感じで。

そうこうしている間に花火が瞬く間に打ち上げられた。

夜空を明るくする色とりどりの花火を鮮明に脳裏に焼き付きつける。皆の視線も空に向かう。西谷先輩も田中先輩も翔陽君も子供のようにはしゃいで、それを見つめる大地先輩、菅原先輩、旭先輩ら三年生。静かに花火を見つめる影山君や月島君や山口君、縁下さん、木下さんに成田さん。潔子先輩も仁花ちゃんも風景を慈しんでいる。

こうして皆で見るのも悪くないかも。


白い水風船の中で水が跳ねる。涼やかな幸せの音がする。

単語
水風船、花火