寂しがりの愛らしき願望
電車の外を流れている風景は、未だ見慣れない風景だった。……無理もない、まだここに来て一ヶ月足らずだし、何よりこれから慣れていかなければならない風景なのだから。
家族や親友、部活仲間、そして、大切な宗介を残して一人、東京の大学へ進学を決めたのは紛れもない自分だった。
ずっと憧れていた大学は楽しいし、未知の世界に踏み込むことだって、恐れを抱くよりも好奇心や歓喜を思うことの方が多い。
だけどまだ一人には慣れる気配がない。慣れることができる日なんて来るのだろうか。
東京の大学に合格したとき、家族の次に報告したのは宗介だった。
高校の卒業式を終え、こちらでの新居を探し始めたとき、ふと、自分は、彼をおいて行ってしまうのだということに今更だけど気づいた。そして気づいたときにはもう出発まで時間もなく、結局二人だけで過ごした時間は別れを惜しむには短すぎた。
彼に別れを告げた時、決して私を引きとめなかった。所詮彼の思いはこの程度だったのだろうか。私はこんなにも宗介のことが好きなのに。考えれば考えれるほど胸が痛くなった。
一人だけの新生活が、こんなにも身に堪えるものだとは思っていなかった。早くもホームシックにでもなりかけているのだろうか。家族にも、もちろん宗介にも会いたい。やっぱり私が住んでいた所はとても素敵な所だった。自分はもっと堪え性のある奴だと思っていたのだが、案外そうでもないのかもしれない。
これで隣に宗介がいれば、きっと楽しく過ごせたのに、なんて毎日のように考えてしまう。彼に会いたい。会って、あの子供のような笑顔を見たい。でも、彼とはついこの間別れを告げたばかりなんだ。
「行ってこいよ」
って言われたけど、本当は宗介に引き止めて欲しかったのかもしれない。独りがこんなに寂しいなんて思いもしなかった。隣に宗介がいない事なんて考えたこともなかった。
連絡は互いの忙しさのあまりほとんどしていない。考えたくもないが、──自然消滅なんてこともありえないわけではない。でも、今日は、今日だけは連絡してみようかな……。とアパートの階段を上がりながら考えてみる。
すると、私の部屋の前だろうか、人影があった。………もしかして…、どきどきと逸る心臓とは反対に、ゆっくりと歩みを進める。
近づいていくとその影の全貌が明らかになっていく。私の部屋の前にうずくまっているその人は──彼は、ああ、一体いつから俺のことを待っていてくれたのだろう。嬉しさと、申し訳なさと、何よりも愛しさで体が震える。
「宗介………?」
「ん…?あぁ名前…」
「会いに、来てくれたの……?」
「お前が寂しがってると思ってな」
そうしてここにいるんだろうっていう疑問より、来てくれた喜びの方が大きい。宗介もまだ忙しいだろうに…。
「す、……すっごぐ、寂しかっだっ…!」
「ほら、来いよ」
「うん……!」
涙が出るのは案外簡単で、今までの思いが全部吹き飛んで行った。
単語
別れ、切甘