情熱は氷をも溶かす
ベッドの上で苦しそうに顔をゆがめ、息を乱している名前を見て胸が痛くなる。俺が変わってやれればいいのに…。
「凄い熱だ…」
「えへへ、…平気。辰也君はもう家に帰ってもいいよ?明日も部活なんでしょ?」
「そうはいかないよ。……こんな状態の名前をおいて帰れない」
「ごめんね、…ありがとう」
こんな状況でも律儀にお礼を言って来る所が名前らしい。
「コホン……ケホケホ!」
「しばらく無理は禁物だね」
苦しそうに咳き込む彼女はなんとも痛々しい。高い熱とは知りながら一応体温を確かめてみる。手をそっと彼女のおでこに伸ばして乗せる。
「あれ、辰也君の手、ひんやりしてて気持ちい……」
そう言って俺の手をおでこにぐりぐりと押し付ける彼女を見て、可愛いなと思い思わず頭をなでて和んでしまった。いけないいけない、こんなことをしてる場合じゃなかった。
「そろそろ氷は変えた方がいいかな。ごめん、台所借りるよ」
「やだ……、いかないで。ずっとここに居て…。」
ここまで甘えてくる名前は珍しい。しっかりしすぎている彼女は滅多に甘えて来ることはない。やはりこう言う時は人肌が恋しくなるものなのだろう。
「本当はぎゅっとしてもらいたいけど…移っちゃうから今は無理だね」
可愛い。こうして素直に俺を求めてくれる名前が心底可愛い。俺は無言でギュッと彼女を抱きしめた。横からだったから少し窮屈だったけど、俺も彼女を抱きしめたかったから苦ではなかった。
「…ありがとう」
嬉しそうに笑う彼女にキスしたい衝動に駆られるも、今であったら多分彼女に拒まれるんだろう。
「早く名前が治りますように…」
おまじないの意を込めて彼女のおでこにキスをした。すると安心したように顔を綻ばせ、そして眠りに着いたようだ。このままゆっくり寝かせてあげよう。自分でも気味が悪いくらいの優しい表情で彼女の寝顔を見つめる。
起きた時に隣にお粥があったら彼女は喜んでくれるんだろうな。なんて想像しながら俺は名前の部屋を後にした。
何度か使った台所を借りて、お粥を作った。お粥は簡単にできるが、味付けは俺好みに仕上げた。作ったお粥を持ってまた彼女の部屋に戻って来た。
彼女はまだスヤスヤ寝ている。
そのまま忍び足で名前のベッドまで近寄ったら、名前はちゃんと深く眠ったらしく、目を閉じてすやすやと寝ていた。そこに先ほどまでの息苦しさはなく、少しはよくなったのかな、と思ったらちょっと嬉しくなって思わず顔が緩んだ。
お粥が入ったお椀をベッドわきのチェストの上において、ベッドの端に腰掛けてそっと名前の更に顔に近づく。体の上に置いてあった氷はすっかり溶けていた。
「……ん…、あんぱーんち…」
一体どんな夢を見ているのだろうか。彼女と夢との関連性が見つからなくて小笑した。
でもきっと今だったらキスができる。
みょうな高揚感とともに今度は唇に唇を重ね合わせた。体の力が抜け切っているためか、いつも以上に唇が柔らかく感じた。体温も、熱のせいか熱くて、でもその体温を不快だとは感じなかった。それは彼女だからであって、他の人であったらこんな感情は起きないだろう。
俺が好きなのは君だけっていうことがよくわかった気がするよ。
単語
氷、熱