希望は希望を叶えてくれる
ナンパとか、…されてみたい。
彼氏がいる人の発想ではないのは分かっている。でも人生で一度くらいはナンパをされてみたかった。
私の理想のシチュエーションはこうだ。
「へーい彼女?俺らと一緒に遊ばなーい?」
チャラチャラした男の人が私に声をかける。
「あの、ごめんなさい待ち人がいるので…」
「そんなこと言わないでさー」
相手がなかなか引き下がらないので困っていると、
「お前らなにやってるんだ?俺の女に手を出すな」
と言って鉄朗君が助けてくれる。こうして鉄朗君がナンパした彼らに嫉妬して、私が"私には鉄朗君だけだよ"と言って私達の仲が深まる、という幼稚な考えが私の理想だ。要するに私はとても鉄朗君にヤキモチを妬かれたいと言うことだ。
そんな願望が私に先述の通りの典型的な妄想を生み出した。なんで私にこんな事考えてたんだろう。私がナンパされるくらいの容姿だったら、鉄朗君は今頃ヤキモチを妬きまくっているころだ。
「なに、お前泳がねーの?」
「あんまり焼けたくないし、今日は泳がなくていいかな!」
「何のためにわざわざ海に来たんでしょうねぇ?」
「……私が、海に行きたいって言ったから?」
「ご名答。言い出しっぺが何言ってんだよ」
現実はそう甘くない。結局ヤキモチを妬かれる気配もなく、鉄朗君の巧みな言葉に言いくるめられて、しぶしぶ海へと足を向けていた。ビキニなんてそんな露出の多いものは着る事ができないので、自分の好きな色のワンピースを持ってきたのが間違いだったのか。
気になる体型をちょっと隠してくれるその水着を見ても、鉄朗君は何も言わなかった。
お前には色気がないと言われた気がして、ちょっとガッカリした。私の本当の気持ちを隠しながら、随分先を歩く鉄朗君に追いつこうとしていると
「あれ、お兄さん一人?もし良かったらあたしらと一緒に泳がない?」
逆・ナ・ン…!
なんで…、私の理想とは正反対だ。まさか鉄朗君が逆ナンされるなんて。そりゃ鉄朗君はいい体してるしイケメン(?)だし、そこそこ優しいけど、一丁前にナンパされるなんて。これでは私が嫉妬してしまうではないか。
「………うぅ、羨ましい…!」
「あれ、苗字?」
「…ん?あれ、久しぶりだね純希君!」
鉄朗君を見つめつつ、背景に映る青い海を見据えていると、中学時代、割と仲が良かった男の子に出会った。鉄朗君と出会う前は純希君が好きだった時期もあったなぁ。今は断然鉄朗君にゾッコンだけど。
その証拠に、今でも彼はカッコいいとは思うけどこうして純希君に出会ってもときめかなくなった。これは悔しいくらいに私が鉄朗君を好きな証拠だ。
「今、一人?だったら良かったら俺と一緒に泳ぎませんか、なんて……」
「悪いねぇ、こいつは俺のなんで」
純希君が見た先には不敵な笑みを浮かべた鉄朗君がスタイリッシュに立っていた。鉄朗君の方が幾分か高いために純希君が見上げる形で両者歪みあう。結局純希君が折れる形で、颯爽と去っていった。
「何一丁前にナンパなんてされてるわけ」
「え、今のナンパ…!?」
純希君は面識があるからナンパではないと思うけど…。そっか、鉄朗君は私の中学時代の友達なんて知らないもんね。
「お前は目を離すとすぐどっかに行くな〜」
「……ごめんなさい?」
「なんで疑問系なんだよ。ってか心配だからずっと俺のそばにいろよ」
なんて殺し文句。そう言われればずっと離れたくなくなっちゃうけど…、いいのかな?
単語
海、嫉妬