脱出劇の恋占い


「錫也〜!」


はは…今日も来たか。
まるで子犬のように懐いてきたのは俺の幼馴染である名前だ。
愛くるしいその姿は、誰にでも人気がある。
可愛いだの、なんだの。聞こえてくる単語はそのようなことばかり。


長年こいつを思い続けてきている俺の身にもなって欲しいと言うわけだ。



「はは、まったく。今日も、これ…だろ?」


持っていた袋を開けるとそこには俺が作ってきた弁当があった。
名前は体型に合わず大食いなのでそのことを考慮して少し多めに作ってきている。


「うわーー!さっすがオカン、分かってるね!!」


「オカンはやめろって言ってるだろ…?」

「はい、はい。」



駄目だ、俺の話を聞いてはいない。


でも、俺はこうやって餌付けをすれば誰にでもホイホイついて行ってしまうような名前が心配で仕方がないのだ。
こんなことを思っているからオカンとしか思われていないということか。
つまりは男として見られていないということ。


いつかはこの関係を脱出しようと考えているが、今の関係を崩すのも怖いし勇気がいる。



「やっぱり美味しいな、錫也の弁当は」


「そっか、ありがとう」


美味しそうにおにぎりを頬張っているが、口の横には米粒がついている。


「ここ、ついてるぞ」


「ほへ、はひはほう」


それをサラリととってやると、食べながらお礼を言われた。
いつまでたっても性格は変わらないな…。


「うーん、錫也の将来のお嫁さんが羨ましいな…。」


ドキリ。胸が少しチクリとした。
俺はお前がいいんだけど。ってかお前じゃなきゃいやなんだけど。
喉まで言いかけているのに言えない俺はヘタレなのか。


「お嫁さん…なってみる?」


本気半分冗談半分の賭けに出た。
いつものように笑って済ませてくれればいいんだけど。


「え、うん。」


それは予想外だった。
あまりにも軽々しく言うものだから、空いた口が塞がらない。
今、なんて?脳の整理がつかないんだけど。


「それ、本気で言ってるのか!?」


「錫也は本気じゃなかったの?」


そう聞き返されると何も言えなくなる。
冗談半分で聞こうとした俺がバカだった。
名前はいつでも純粋で真っ直ぐ俺を見ていたというのに。


「ごめん、本気だよ」

「良かった。私もずっと錫也が好きだったんだよ。」


さっきと比べて一際大人しくなった名前の声に、どきりと胸が鳴った。
長年両思いだったなんて知らなかった。名前も俺と同じことで悩んでいたのだろうか。


「俺もずっと名前が好きだった。…これからもずっと一緒にいてくれる?」

「そんなのもちろんだよ。」


俺は身を屈めて名前のおでこと自分のおでこをくっつけた。


「なんだか、くすぐったい…っ。」

そして、さっき完食した弁当箱がカランと音を立てて落ちた。