24時間とは早いもので、ついに決断を下すその日がやってきた。眠っていないのに、時はあっという間に流れる。
今日が終わるまでは、まだ十分に時間はある。
今日で決めなきゃ。天使になるか人間に戻るかを。
今の自分の気持ちとしては五分五分と言ったところだ。どちらにもいい点はあるけど、もちろん悪い点だってある。
そして、私は不安を沢山抱えながら。孝支君とお話をすべく彼の元へ向かった。向かったのは言わずもがな彼の住むマンション。ドアをすり抜けるのはもう慣れた。人間に戻る道を選ぶのであれば決して慣れてはいけない事。逆に言えば、天使になりたいというのであれば慣れなければいけない行為。
「準備はいいですか?」
『うん…。お願いします。』
「リミットは一時間ぴったりです」
リリルにお願いして、孝支君と身近で再び話せるようにしてもらった。一時間でもなんでもいいからお話がしたい。触れられなくてもいい、ただもう一度だけ私を確認して欲しいだけ。一時間なんて愛を紡ぐには足りなすぎる時間だけど、少しでも伝えられるのなら文句なんて言ってられない。
「………」
さっそく孝支君の部屋に向かうと、彼は机に向かったまま寝ている様子だ。そんなんだから直ぐに風邪をひくと言ってるのに、なんだかんだで無茶するところは相変わらずだね。
『孝支君……。』
本当であればもっと彼を寝かせてあげたかったけど、今は時間がない。私は必死に、すっかりか細くなった声を彼に届けた。
「………ん、…名前?…………名前!」
優しくて、しっかりしていて、いつも笑顔でみんなを引っ張っていく孝支君。そんな彼が驚いている様子だって何度も見てきた。彼のどんな表情でも好きになれる私だから、この表情だって、次に見せる表情でさえも、もっと好きになっていくのだろう。
『一時的にだけどただいま…っ』
「おかえり…、おかえり!」
孝支君は私を見るや否や近寄ってくる。けど…、孝支君の両腕は私の体をスルリと通り抜けた。
「…あ。……っ…!」
彼の苦痛の表情にかける言葉も見るからない。この空気に耐えられなくなって、私から口を開いた。
『私、最後に話をしにきたの』
「話…?」
私は人間になるか、天使になるかを迷っていること。そして人間に戻った時のデメリットなどを話した。彼は親身になって私の話を聞いてくれた。やっぱり優しいね。
「大切な事は失ってから気付くんだ。名前の笑顔が見れなくなって、時間が経つにつれ、辛さが込み上げてきた…。」
孝支君は苦しそうに瞳を閉じる。瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「名前を失って…名前の自由を奪った全てのものに対して、怨んでないと言えば嘘になる。一生守ると誓ったのに何もできなかった俺にも。」
私の肩がびくっと震えた。孝支君は独り言の様に言葉を続ける。温かさと切なさが入り混じった複雑な思いが私の胸を占める。
「名前が帰ってくるなら、世界中を敵に回してもかまわないと思ってるんだ。どんな罪でも、俺は犯す。神に背いても、悪魔に魂を売ってもいい。」
そんな事をして欲しくないのに、と言いたくても言葉が詰まって上手く声に出せない。
「俺が死んで、それで名前に会えるならそれでもいいとも思った」
『……!』
胸がきゅっと痛む。私はそんな事が望んでないよ。そのあと彼は深く長くため息をついた。
「でも、そんな事をしたら、きっと名前は自分を責めるよな?」
『なんで…、分かって…。』
「一体何年一緒にいると思ってるんだよ?名前の考えてることはお見通しだよ」
地上に降り立ってからは見ることがなかった彼らしい笑顔が咲いた。その瞬間、私の心に安らかな炎が灯るのを感じた。
「名前。生きて、…、生きて俺と結婚すんべ!」