「生きて、生きて俺と結婚すんべ!」
何の迷いもなく発せられた言葉に体が強張る。その瞳は昨日の病院で見た凛とした目だった。
「名前と一緒にいることが当たり前のようになってて。だから、俺はまた名前の笑顔が見たい。俺のそばで笑っていて欲しいんだ。」
いつかはと、望んでいたプロポーズがこんな状態の私にされると思っていなかった。その瞳は、過去を見ているようでもあり、未来を捜し求めているようでもあった。不安や希望の入り混じる彼に対して、言葉が溢れてきた。
『人間になって私を覚えてもらえないことが辛いよ…!全部、全部、…っ記憶が消えちゃうんだよ?』
「名前………。」
『一生その人のこと思い出すことはないんだって…。勿論私の記憶も全部消えちゃう』
言葉も、涙も溢れて止まらない。止める術を知らない。馬鹿だよね。孝支君は何も悪くないのに、八つ当たりのように言葉をぶつけるなんて。正常な考えをする力が鈍っている。
「じゃあ、俺が思い出す。その分俺が全部思い出すよ!」
『そんな保証どこにもないでしょう?私はね、生まれ変わっても孝支君がいい』
「俺だって名前がいいに決まってる…」
『…だから、今はせめて貴方の記憶の中にだけ残っていて欲しい。』
初めての喧嘩のような言い合い。温厚な彼からでは考えられない剣幕に若干怯む。私を想ってくれているのはこの上ない喜び。でも記憶がなくなってしまえば、私を想ってくれる人もいなくなるし、想って泣いてくれる人もいない。
『どんなに離れていても、二度と会えなくても…たとえ私が消えていなくなったとしても、大切な人の笑顔が私の幸せなの』
「大切な人の笑顔って…。」
『もちろん孝支君や家族、友達の笑顔の事。きっと地上で誰かが私を想ってくれているから、私も幸せでいられると思うの。』
孝支君の、家族の、多くの大切な人の笑顔が脳裏に浮かぶ。悲しみで覆い隠されていた、大切な想いが姿を現す。あぁ、きっと私は今天使になることを望んでる。
「名前はそれでいいの?」
『うん。悔いはないよ。』
「…そっか、じゃあ俺はもう口出しできないな」
なんて苦笑い。
でもその優しさが、私の心にも注ぎ込まれた気がした。私はもう大丈夫。誰かが私を想ってくれるだけで、いつでも何処でも幸せでいられると思うの。
『ごめんね、こんな私で。本当に…。』
「ううん、生まれてきてくれてありがとう。俺と恋をしてくれてありがとな…。」
『こちらこそありがとう。…じゃあそろそろいかないと。』
大切な人々の幸せは私の未来でもある。私との思い出で微笑んでくれるのなら、私はずっと生きている。愛しい人の中で永遠に生き続ける。
生きている時との幸せとは違う。
でも、今の私にとって最高に幸せな未来。
***
ピーーーーーーーーーーー___………。
「大変です!苗字さんの意識が…!」
***
拝啓皆様。
私は今日天使になる事にしました。
みんなに、私の事を忘れて欲しくないから。
だから時々私の事を思い出してください。
これが私の最後の我儘です。
いままで愛してくれてありがとうございました。