リリルと地上に降り立って、最初に目にはいったのは今度こそ真っ白な病院の壁。地上に降り立ったというのに、今の私には何も匂わないし、何にも触れることができない。
そしてただ、フラフラとあてもなく歩く。まるで何かに引き寄せられるように。目的地など知らないはずなのに。
窓から見える外は真っ暗。闇夜をわずかな明かりが照らしている。
『苗字、名前……。』
辿り着いたのは私の病室。嫌でも壁を擦り抜ければ、生々しい機械音が鼓膜を揺らす。よくドラマか何かで聞いていた音に今回ばかりは嫌気がさした。
病室に入ってから私の姿を探す。閉められたカーテンの数々。
どこに私がいるのか分からないはずなのに、私は分かってしまった。何処からともなく私を想って泣く声が聞こえてくる。
『………お母さん。』
お母さんは私の手をぎゅっと握って啜り泣いていた。肝心の私の体には、色々なところに管のようなものが刺さっていて、痛々しい。目は覚める様子はない。
「名前さんは、とても良い方だったんですね」
後ろから何も言わずについてきてくれていたリリルが口を開いた。
『どうしてそう思うの?』
「多くの方が心の底から悲しんでいます。いろいろな所から貴方を想って泣く声が私の耳に届くんです。"どうか死なないで"と」
その事を嬉しくも心苦しくも思いながら、私は少し考える。一つ、未練が消えた。これだけ私を想ってくれている人がいるんだ。それだけで十分な生きた証。
すると、私の胸が急に高鳴った。何……?
気配を感じて振り向くと、そこには愛しくて、愛しくて堪らない孝支君の姿。
「お隣……失礼しても宜しいですか?」
「えぇ。孝支君も忙しいのにわざわざありがとうね…。」
「いえ、名前に今日あった事をお話しようかなと思いまして」
孝支君が笑顔で会釈すると、お母さんも軽く会釈を返した。私ちゃんとここで聞いてるよ、孝支君。
「あ、そうだわ。私ちょっと売店に行ってくるわね。」
お母さんが見え見えの気を遣ってその場を立ち去った。
「名前のお母さんは本当にいい人だな」
聞き取れるかも危ういような小さな悲鳴。孝支君は動かない私の頭を本当に愛しそうに撫でる。
苦しい……。感覚なんて感じないはずなのに、胸がキュっと締まって苦しい。
どうして、こんな目にあわなきゃいけなかったの?