/未来への恋心/


中一の夏休み、時間はあっという間に流れる。

蒸し蒸しとした暑さがまだほんのりと残っている朝、私は家を出た。

この蒸し暑さの中にもかかわらず、私が機嫌良くぴょんぴょんとその場で跳ねているのは、今日もまた京治君に会えるからだ。

スニーカーの靴紐をきゅっと結ぶと同時に私の気合もきゅっと引き締まった。それだけ彼との再会が嬉しかった。

朝からうだるような暑さで、頭に被った帽子と額の間から汗がにじみ出る。目に入らないように、腕でそれを拭うと、私はまた歩き出した。気分は高揚したままだ。

向かう先は二人だけの秘密基地。
"だけ"という言葉が付くだけで秘密感が増すような気がする。

丘に着くと深く深呼吸をした。今日も空気が澄んでいる。一面に咲く花たちは、必死に上を向いている。そんな花は人間を安からな気持ちにしてくれることもあるから凄いなぁと思う。花の匂いもその体も全てふんわりとした雰囲気を纏っている。

『京治君、まだかなぁ』

呟くと、風がふわりと吹く。スカートを穿いているわけではないから、捲れるってことはないけど、なんとなくズボンを押さえる。

そう言えば、と、昨日久しぶりの再会を果たした彼の姿を思い出す。近かった目線はよっぽど遠くになっていた。少し見上げなければいけないほど。それに、あどけなさの残っていた顔に、男らしさが加わっていた。

人間の男性の成長とは恐るべきものだと痛感した。それに前よりドキッとすることが多くなったのはきっと京治君がカッコよくなったからであり、私が自分の気持ちに気付いたからだろう。

京治君はバレー部に入って頑張っていると、昨日聞いた。

「ボーッとしすぎ」
『わ!』

地に咲いた花を見ながら、昨日の出来事を思い出していると、人の存在には気付けなかった。それも大事な京治君だってことも。

『京治君ですか…?』

まだ信じられないんだよなぁ、彼が来たこと。

「うん、そうだよ」

やっぱり、カッコよくなった。成長って怖い。もっともっと身長が伸びていくであろう成長期はこれからといったところだろう。

彼には、クラスの男子には湧かない感情を教えてもらった。

これはまだ幼い恋心。

であるのには変わらないけど、今はこれから大きくなるにつれ膨らんでいく恋心と比べて少し想いが小さい。まだ、これから彼を知っていく。いろんな一面を知っていく。

この恋心に気づいてしまったからにはもう後戻りはできない。

もし失恋してもこれが私の初恋だったことは誇れる。だって相手が京治君だから。京治君が私に純粋な恋を教えてくれた。どんな出来事があったとしても、この恋を忘れることはできないんだろう。


「…名前?」

考え事をする私の顔色を伺いように覗き込んできた京治君に悪戯っぽい笑顔でこう言う。

『京治君、今日は何して遊ぶ?』

まだ、まだ夏は終わらない。