/小さな想いの丈/
side:赤葦
時の流れはあっという間だ。
何をしなくても俺は中学生になった。
俺は都内で家から近くの杜中学校に入学した。
そこではバレー部に入部した。俺は小さい頃からクラブなどを通してバレーに触れ合う機会があったが、本格的に向き合ったことは一度もなかった。そこは所謂強豪校というやつで、毎日充実した練習をこなしていた。辛くて心が折れそうな時があるが、来る夏休みのことを思えば、自然と頑張れた。
そう言えば、彼女は元気だろうか。あの森で出会った名前は。
暫く会ってないな、とふと思うことが何度かある。
中学生ながら軽く化粧や、スカートを、短くしてみたりしてる女子を見ると、彼女とは正反対に思えてくる。ガサツ、とまではいかないが大雑把で、そこらの男よりも男らしくて、活発で、でも笑った顔は…太陽みたいで可愛いと思う。
心の何処かで、気がつけば名前の事を考えている俺がいる。何だろうか、このむず痒い感情は。
活発に川で遊ぶ姿、息を潜めてカブトムシを捕まえる姿、花に囲まれて笑顔を見せる姿。
煩いほどに、脳内では彼女の姿、声が再生される。
会う度名前のことを知っていく。知れば知るほど近くに感じる。近くに感じるとすぐに俺は東京に帰らなければならなくなる。そして少し距離が遠くなるの繰り返しを過ごしてきた。
本当はもっと休みが続けばいいと願った時もあった。
今だって早く夏休みが来ないかと、待ち望んでいる。
でも俺は今、燃えられるものを見つけた。それがバレーだ。バレーは俺を熱くさせてくれる。
俺のトスでエースが気持ち良くスパイクを決めてくれるあの感覚。ツーで相手を欺く時の気持ち良さ。あの感覚を味わいたいともう一度試してみる。バレーの魅力に気づいてしまった。
バレーをしている時だけ名前の事を考えないで済むし、なによりバレーの魅力にどんどんハマっていく。完全に彼女の事を忘れられるわけではないけど、少なからず熱中できるものを見つけられた。そして、またバレーにのめり込む。
そうしているうちに夏休みが来た。
俺はいつも通りあの田舎の家に帰られると思っていたが、その熱中できるものが俺を違う意味でガッカリさせた。そうだ、夏休み中にもあるんだったな…部活。その事実を夏休みに入ってから知った。
生憎俺は彼女の電話番号も知らないし、家の住所も分からない。
そもそも一度だけだと思っていた出会いが、こんなに長続きするなんて誰が想像しただろうか。
今年は会いに行くのが遅くなる、と知らせる術もない。ただ待ってもらうのも癪だが、それしか方法はないだろう。
あぁ、彼女に会えないのか。あの、活発に動き回る名前の姿を見ることができない。しかしどんなに時間が経っても、彼女なら俺を待っていてくれるような気がした。
…俺はなんでこんなに寂しがってるのだろう。
名前に会えないのは寂しい。でもここまで深く残念がることはないんじゃないか。
何か、もっと別の理由があるはずだ。
理由が間違いなく名前にあることは分かっている。こんな事考えるなんて自分らしくないな。
キツイ練習にも耐えて、夏休みもお盆に差し掛かった。ようやくあっちの家に行ける手立てが立った。
田舎の家に戻ってすぐ、彼女のいる丘へ向かった。いるか分からない。待っていてくれるか確信はない。それでも惹かれるように向かうと、彼女はボケーっとした顔で空を見上げていた。でも、俺を見たときの笑顔が、一瞬で寂しさから解放してくれた。
その時俺は、気づいてしまったのだ。
何よりも俺を焦がせてくれる名前への恋心に。