/数えきれない想い/
冬休みがやって来た。
気持ちを自覚してからと言うもの、これほど待ち遠しいと思った冬休みはない。
私はいつも以上に気合を入れて、宿題を早めに終わらせる。私の性分上、宿題を最後の日まで残してしまうのがお約束かと思われるだろうが、私はやればできる子なのだと証明してみせた。お陰で親にも褒められて、友達にも驚かれた。ふっふっふ、今までの私じゃ無いのだよ。
そして今はこの間買ったばかりの長くつで雪道を歩き進めていく。ザッザッザッと踏みしめると出る音が心地よい。つい2ヶ月前まで見えていた土はすっかり雪に覆い尽くされている。
白い息をハーッと吐きながら、マフラーに唇ごと埋める。ずっと使い続けてきている手袋はいよいよ潮時だ。あちらこちらがすり減って、時々雪が染みる。そろそろ買い換えないとこれからの冬は厳しい。
丘に着いてもやはり土は姿を見せない。雪に埋まった花さえも、今は下へ下へと根を伸ばし、夏には大輪の花を咲かせる。言わば今は準備期間。だが私の準備期間は夏から秋にかけてつい最近終わった。京治君に会う心構えを、長い間かけてしっかり養ってきた。
私はこの冬の期間だけ自分らしさを思い出す。
何より、大好きな彼と会うことによって。
「名前、 ただいま」
『……京治君っ!おかえり』
後ろから声がかかる。それが幸福の始まり。
「相変わらず雪道は険しいね」
『あはは、慣れないよね。私もここまで来るの苦労するからね』
「それにしても寒い」
京治君は小刻みに体を震わせている。寒がりなのだろうか、それとも単に薄着というだけなのだろうか。きっとこの二つのうちのどちらでもなく、ただこの地域の寒さに耐性がついていないだけだろう。
『京治君、手真っ赤だね』
「こっちってこんなに寒かった?」
昔は何の気なしに走り回っていたから、自然と体が温まっていた訳だが、今はそうもいかない。走ると雪が重くて、転びそうになることがある。それに、昔は身長が小さくて、足が完全に埋まってしまう光景だってよくあった。今でこそ埋まる事はなくなったが、依然として深い雪だ。
京治君はマフラーは巻いているが、手袋ははめていない。そりゃ手が寂しいわけだ。
私は十分に温まったから手袋を貸すこともできるはずだけど、なにせ手の大きさも違う。私でも小さい手袋なのに京治君がはまるとは思えない。
こういう時は人肌で温めた方がいいんだろう。
私は取った手袋をポケットに詰め込んで、彼の冷たい手をギュッと握った。
『やっぱり、冷たいね』
両手で彼の両手を包むと、ヒヤッとした感触が手伝いに分かる。早く温まって欲しいと思って、甲の上を回しながら温めていく。母に、寒い時にこうされてとても心が落ち着いた経験がある。京治君にも適用されるかは分からないが、やってみる価値は十分にあるだろう。
『温かくなってきた?』
ようやく彼の顔を見上げると、京治君は目を見開いていた。それも私と自身の手を見ながら。
……何、やってるんだろう。つい、いつもの友人と触れ合うよう癖で京治君に触れちゃダメでしょ!でもここからじゃ引き返せない。嬉しいやら恥ずかしさで潰れてしまいそうやらで葛藤する。
どうしようどうしよう!
「温まってきたよ」
葛藤している間、京治君はようやく喋り始めた。それにいちいち表情が変わる私の顔を見て笑っていた。
「名前の手は、小さいね」
私が包んでいたはずの手は、今度は京治君に包まれていた。京治君は手の平の方も冷たかった。でも、そんなことは気にしていられなかった。
『京治君の手はやっぱり大きいね』
そして自然と手を合わせて大きさを比べていた。手は私より1回りも2回りも大きかった。以前比べたのは小3の夏休みだっただろうか。あの時は大きさの差はあまりなかったのに。
『京治君の手、あんなに小さかったのにね』
手だけじゃない。体格も声も大分変わってきている。大人になるってこういう事なんだろう。
「俺だって小さいままじゃないよ」
それは私も痛いほど痛感している。
でもね、私だって小さいままじゃないよ。貴方への気持ちはこんなにも大きくなっているんだもの。