/優しさの意味/


今日も早めにやってきて、京治君を待つ。ホーッと両手に息を吹きかけて手を温める。どんなに手袋をはめようとも冷たいものは冷たい。雪国に生まれた宿命とはいえ、寒さと一生付き合っていくのは無理かもしれない。

体を小刻みに震わせながら待っていると、雪を踏みしめるような音が耳に入ってきた。その音は私ではなかった。必然的にそれは私以外のものの仕業であると推測できた。いつもは突然に現れるあの人。いつも焦がれるほどに待っている、愛しい人。

私は視線を足音の方向へと送る。そこには黒いコートに身を包み、マフラーをして、深々と帽子を被った身長の大きい人物が一人立っていた。私と同じように白い息をはきながら近づいてくる。

『今日は遅かったね』
「そう?」

言いながら京治君はポケットの中から何かを出して私に投げた。それは少し暖かみを残した缶のココアだった。今飲めばまだ暖かい。これを私にくれるということだろう。

彼と会うと心がこんなにも暖かくなる。

「それ、あげる」
『…!ありがとう!』

京治君の方もポケットから同じような缶を取り出して開けた。彼の方もココアだった。私は貰ったココアで頬を温める。あぁー、温かい。

ココアも飲み干して、いつものように話したり、雪を使って遊んだりした。

もう夕暮れが迫っている。太陽とお別れする少し前には、京治君とお別れしなければならない。

「明日、東京に帰る事になったよ」
『…そっか』

彼と出会ってから、この会話も何度目だろう。一向に慣れる気配がない。慣れてしまったら終わりな気がする。

別れはいつも寂しい。
こんなにも楽しい時間があっという間に終わる。

出会いが胸踊る分、別れは何倍も悲しいんだ。出会いがあれば別れもある。一生寄り添う夫婦だって、何らかの形で別れを経験する。その悲しみは、私では計り知れないものなんだろう。

京治君は明日東京に帰ってしまう。胸がきゅっとして切なくなる。年々その切ない思いが積み重なり、度々大きくなっていく。どうにも止められない想い。本当は帰ってほしくない。ずっと傍にいて欲しい。こんなわがままは、いつになっても言えない。私の都合で京治君を振り回したくない。


『また来てね』
「今度はまた夏休みになる、と思う」
『京治君に会えるならいつでもいいや』


いつもの日常に戻るのは少し大変だけれど、こうして会うことができる期間がある事を待ち遠しく思うのも楽しく思えるようになってきた。

会えなかった分の想いを会った時ぶつける。それが幸せになりつつある。

ちょっとの辛抱だ。1年にしたら長いけど、一生にしてみればたった数ヶ月という短い時間を待てばいいだけ。それ、だけ…。

『冷たっ』

京治君が両手を使って私の頬を包み込んだ。その手には相変わらず手袋ははめられていなくて、ひんやりとしている。

「また来るから」
『うん。………うん!』

私は京治君の手に自分の手を重ねた。何時もよりも距離が近い。心の距離もこんな風に近くなれたらいいのに。

また、恋い焦がれてしまうよ。

「じゃあ、またね」

優しく頭に彼の手が置かれた。その手で抱きしめて欲しいと言ったら彼はどうするんだろう。

優しく抱きしめてくれる?それとも優しく途絶してくれる?

どちらも優しいけれども意味合いは全く違う。悔しいけど確証がない今は、前者である可能性の方が低いと思う。

小3、から4、5、6と4年間。そしてこの1年をかけても、心の距離は大きく変化する事がない。そもそも始まりの距離が近すぎたのだ。互いに緊張し過ぎることなく、すんなり友達になった。

今の私たちの関係も友達のまま?もう少し、進んだ関係になっているといいなぁ。


少なからず、京治君にとっての私はきっと友達。今は、それでいい。そう自分に言い聞かせた。