/待ち望んだ日/
私は高校生になった。
そして、約束通り念願の初携帯をゲットした。最近は進んでいるから、携帯電話と言うよりも、スマホといった方が正しいのだけれども。これで今年からは彼と連絡を取ろう。今まではよく分からない意地をはって、連絡することを拒んでいた。会うことの方がよっぽど大切だと思って、連絡することに価値を見いださなかった。
今は違う。何かで繋がっていたい。決して切れない縁だと言う証明が欲しい。
どんなに時間が経とうとも、やはり京治君への想いを捨てられないままだった。そんな気持ちのまま、車で20分程の高校に合格した。進学校とも言われるそこは、県内でもなかなか有名な高校だった。
京治君と離れたあの日から、私は短めだった髪を伸ばした。よくここまで伸ばしたものだなぁ。
少しでも可愛くなって、彼を驚かせたくて必死に可愛くなろうとした。
化粧とかまだそういうのは早いと思ってやめたけど、とりあえず髪を伸ばすことから始めてみた。毎日自分の鏡をじっくり見るという習慣のなかった私は、鏡と睨めっこすることが恥ずかしかったが、今は慣れた。
中3の時、切羽詰まった受験期にも関わらず、何人かの男の子に告白されるようになった。もちろん別に好きな人がいるという理由で、ちゃんと断った。でもこれが私の自信になった。少しでも可愛くなってる、って。自分にも乙女心が残っていることを自覚した。
夏休み、朝目を覚ますとどこか心穏やかで、外から聞こえる普段は不快に聞こえる蝉の声も、素直に聞くことができた。たった一週間の命なのだから、必死に鳴く声を聞こう。いつもは気怠い朝も、今日は晴れやかだ。
それに、私には今日もっと嬉しい出来事がある。
お盆の時期がやってきた。
それは私が彼と会うことが出来る事を意味する。
どれほど待ち望んだだろう。何度恋い焦がれただろう。
中3は毎日同じような日々が過ぎていった。
同じような時間に太陽は昇り、そして起床し、学校へ行き授業を受け、帰宅するとまた同じようなことの繰り返し。人生とはたぶん同じことの連続なのだろう。
この一年は、やはり彼と会うことはなかった。会っていたあの夏休みが夢のようで、毎日彼を想っていた。
会いたいと乞うだけじゃ何も始まらなかった中3とは違う。
楽しく、いろいろと充実した中3の夏休みもあっという間に過ぎ去った。去年も味わった、夏休み終わり独特の充実感やもの寂しい感じが私を襲ったが、去年と違うのは、重苦しい気持ちはなかったということだ。
だって、今年はあの丘に彼がいるんだから。
夢が叶うのだ。
私は早めに丘に行って彼を待つ。
私、少しは大人になったよ。
あなたの隣にまたいてもいいかな。
地を歩く音が聞こえる。私は音に集中するように目を閉じる。他の誰でもない人間の足音。力強くあるくそれは男性のものだ。
こんなところに来る人は、私以外いつだって一人。
「名前」
『………京治君!』
風に乗って声が届く。その時、木々が優しそうに揺らめいた。心臓から全身にかけて震えるのが分かった。私という全てが再会を待ち望んでいた。
一年間とてつもなく長かった。会いに行くことも考えたけど、東京のどこにいるか分からない。必ず会えるという保証はどこにもなくて、一歩を踏み出せずにいた。
「久しぶり」
『久しぶり』
久しぶりなのに、ずっと隣にいたみたいに自然に笑う。
風も木々も、大地も生き物も。
きっと全てが私たちの久々の再会を祝福してくれてる。