/踊る胸の高鳴り/


彼はあの小さかった面影を残さず、すっかりカッコ良くなってしまった。

完全に声変わりして、身長は前と比にならないほどグンと伸びた。細いのに逞しい腕は鍛え上げてきた証拠。

風に揺られる彼は、微かに笑っている気がした。興奮で私の身体は震え、感動で私の心は震えた。

懐かしい彼の姿。

私はそれを見た瞬間に分かってしまった。
しつこいようだが彼への想いは、やっぱり憧れなんかじゃなく、本気の好きってことなんだって。

様々な感情が押し寄せてくるように一気にこみ上げてきた。そのせいで、目からは涙が溢れた。

『京治君、会いたかった…!』

私は押し寄せる感情を抑えられなくなって、ついに彼に抱きついてしまった。泣き顔なんて見せなくない。いや、見せたことがなかった。

そして、すぐに気がついた。付き合ってもないのに抱き着くっておかしいよ。私は自分の失態に気がつき、すぐさま彼から離れようとした。


『あ、ごめ。あはは、何やってるんだろ…』

苦笑いで彼の胸板を押すと、それよりも力強い力で私の腕は引っ張られた。そして肩を腕全て使うようにギュッと抱きしめられた。

「俺も、会いたかった」

風は木々や髪を揺らし、それは私達を通り抜ける。身体も心も震え続けている。

胸がどんどん高鳴っていくのが手に取るようにわかる。まるで鼓動を続ける心臓を手で握っているようだ。

空は鮮やかな青色に塗られて、真っ白な彼と混じり合ってはるか高く、とても偉大な存在に見えた。

互いに体を離した時、どんな感覚だったかは覚えていない。でも、お互いの存在を確かめるには十分な時間だった。

ねぇ、私少しは可愛くなったかな?
京治君の隣にいてもおかしくないかな?

この一年間彼のために努力してきた。
彼が少しでも私のこと可愛いと思ってくれれば、今はまだそれでいい。

この想いはいつ伝えよう。
私に伝える勇気なんてあるんだろうか。

自分は時間が経っても臆病だ。

好きだと自覚してもまだ気持ちを伝えられずにいる。こんな気持ちのままじゃ駄目に決まってる。

今までだって少しずつでも前ん進んできたんだ、これからだってできる。

私は、私なりのペースで京治君に近づいていこうと思った。

***

あの小さかった少女が。
あどけなくて活発だった少女が。
少し前までだってまだ子供らしさはあったのに。

高校一年生になって変わった。

根本的な性格はまだ変わってないとは思う。

俺が一番驚いたのはその容姿だった。

前まではショートに限りなく近い髪型だったのに、胸のあたりにかかるまでのロングになっていた。さらさら風に靡く髪は名前の変化を際立たせた。

全体的に線が柔らかくなり、女性らしさの象徴である体には、より一層の丸みを帯びていた。

見違えるものだな。最初は誰だか分からなかった。彼女の姿は、感覚を活気づけ、知的情緒的賞賛を喚起した。

彼女が綺麗になったことは認めよう。

ただ風に乗ってくる彼女の香りは変わらない。
それに太陽のような笑顔も変わらない。

何より俺の彼女に対する気持ちは変わりはしなかった。

久しぶりの再会。
本当は抱きしめてしまいたかった。ただ俺たちはそんな仲ではないことを思い出した。

俺はまだ想いを伝えていなかった。こんなに長い間、言うチャンスはいくらでもあっただろう。

『京治君、会いたかった…!』

グッと気持ちを堪えていると、彼女の方から会えなかった間の憂さを晴らすように抱きついてきたのだ。

名前は泣いていた。本当に俺に会いたいと思ってくれていたんだろう。

俺だって同じ気持ちだった。

『あ、ごめ。あはは、何やってるんだろ…』

困ったように俺の胸板を押す彼女を離してはいけないと本能が叫んでいた。再び彼女を引き寄せ、今度は俺が腕の中に閉じ込めた。

「俺も、会いたかった」

どれくらい抱いていただろうか。お互い無言のまま、且つ心地よい時間を過ごした。

俺だったら何とも思っていない人に抱きついたりはしない。

…だから少しは俺のこと想ってくれてるんじゃないかとは思う。

本当に少しだけだけど。

こうして名前と再会して、決心した事がある。今後俺の人生を変えることになるだろう一大決心だ。

小さな確証を得られた今しかない。

この想いを伝えずして、前には進めない。