/大きな夢花火/
お祭りに来ていろいろ食べて、射的だとかヨーヨー掬いをやった。定番とよばれる物を取り敢えず制覇した。金魚すくいは、家に金魚を持ち帰れないということで出来なかった。何気に一番やりたかった。
やっぱりクラスメイトに遭遇したけど、空気を読んで話しかけないでくれた。あとでお礼を言っておこう。
<<間もなく、花火の打ち上げが開始します。>>
遠くから途切れ途切れのアナウンスが聞こえてきた。周りのお客さんもザワザワし始めたから、花火で間違いないだろう。
「花火か、夏の風物詩だね」
『そうだ!着いてきて』
彼は首を傾げながらも、私の言う通りについてきた。まだ手は握られたままで、もうそれが当たり前の姿だったかのように感じてきた。彼と過ごすこの時が嬉しくて、微笑みを浮かべながら、歩いていく。私の方がここら辺の地理に詳しい。最短のルートであの場所へ向かう。
「どこまで行くの?もうすぐで始まるけど」
彼が背中の方で焦るように言う。それもそのはず、あと二分で始まってしまうのだ。しかし焦る必要はない。
『あと少しだよ』
さっき私の方がここら辺の地理に詳しいって言ったけど、これは彼も知っている道だった。それは丘へと繋がる道。
『この丘、びっくりするほど綺麗に見えるんだよ』
そう言って、私は彼の手を握りながら、丘の中腹へと案内する。
『ここが特に綺麗に見えるの!』
小さい頃、私はお祭りがある度に、ここにきて花火を見ていた。昔は疎らに観客の姿があったが今はもう誰の姿もない。私たちだけの場所だ。
私が座ると、彼もすぐに私の隣に座ってきた。彼の体温を右側に感じる。ついさっきまで直接触れ合っていたというのに、私の胸はまたさらにドキドキと音を鳴らす。
私と彼は無言で空を見上げていた。雲ひとつない晴天に、星が無数に瞬いている。少し早い初秋の涼しい風を身に感じて、まるで私の火照った身体を冷ましてくれているようだった。それでも冷えきれない私の体。
胸に響くような音が、静寂を破り、夜空に大きな花を咲かせる。
花火は何度見ても感動する。
彼も上を見上げていると思って、ゆっくりと目線を向けると、彼も私に目線を向けようとしていたらしく、ばっちりと目があってしまう。
私は急に視線をそらす。そして恐る恐る視線を向けると、今度は彼が上を見上げながら微笑んでいるように見えた。
「ここ、いいな」
彼が空を見上げながら呟く。
花火の音よりも心地よく聞こえてくる。黒かった夜空はいろいろな色に染められて、私の心にも彩りを与えてくれているようだ。
私たちは単なるどこにでもいそうな女子高校生と、単なるありふれた男子高校生に過ぎない。その中で私は彼と出会って、彼に憧憬し、そして彼に恋をした。
いつのまにかこんなにも彼を好きになってた。
最後の大花火が、枝垂れるようにして、夜空のどこかへと消えていった。
『終わっちゃった…。綺麗だったね』
ふと、右手に覚えのある温かみを感じた。見ると私は彼の左手をしかと握り、彼も私の右手をギュッと握っていた。いつ握ったのだろう。もしかしたら、無意識のうちに握ってしまっていたのかもしれない。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。同時に嬉しかった。
「言い忘れてたけど…、その浴衣すごく似合ってる」
『…!ありがとう…』
頼りないありがとう。胸を張って言えなかった。言葉の威力が強すぎて、うまく返事ができなかった。それでも浴衣を着てきて良かったと安堵した。
「今すぐ聞いて欲しいことがあるんだけど…」
『ん?』
この甘い雰囲気慣れてない。握られた手は更に強固なものとなっていた。逃げられない、否逃げようともしていない。
「…正直、もっと名前と一緒にいたいと思ってる」
『…うん』
「気がつけば、気がおかしくなるくらい名前のこと好きになってた」
痛い、心臓が。ドクドクして止まってくれない。
もしかしたらその時が私のこれまでの人生で一番幸せな瞬間だったかもしれない。
「俺と、付き合ってくれませんか」
もう花火は終わっているのに、また心を彩られた。大輪が胸の中で咲いたように晴れやかな気持ちになる。ずっと想い続けた人。貴方を忘れた日なんて一度もなかった。
『こんな私でもよければ…、お願いします』
返事と一緒に京治君の手をギュッと握り直した。
京治君は後は何も言わずに片手を私の頬へ当てがう。この先何が起こるかなんて分かるに決まってる。
もう片方の手を一本一本絡ませて、目を瞑る。互いにボーッとしながら頬を赤く染め、引き寄せられるように、番の小鳥たちのように神経質に短くキスをする。あとで聞けばこれがお互い初めてだったらしい。
一度離れると京治君は私の手を開いて、自分の手を当てた。
「やっぱり手、小さいな」
『京治君が大っきくなっちゃっただけだよ』
慈しむようにおでこを合わせる。
『昨日久しぶりに会った時、京治君がカッコよくなりすぎてどうしようって思った』
「確かに成長はしたけど、それは言い過ぎ」
『ううん、カッコいいよ。…私、京治君に会えない間本当に寂しかったよ』
「それは俺も」
『あの時ここで出会ったのが京治君で本当に良かった…』
また自分から指を絡ませると、自分が与えたものよりも、もっと強く応えようとする彼の手。
「俺も、ここに迷い込んで良かったって心から思ってるよ」
『…頼りない私だけどこれからもよろしくね』
「会える時間は短いかもしれないけど、絶対会いに来るよ」
『浮気しないでね』
「するわけないでしょ」
『うん…』
だけどまだ遠距離恋愛の辛さなんて分かってなかった。歳を増すごとにその辛さを思い知っていくのだった。