/長い間の純情/
東京。
行ったことのない、小さい頃からの憧れの場所。
眩しすぎて、遠かった場所。
届きそうで、届かない。
そんな場所だった東京に来ている。
あぁ、なんて圧迫感。
迫り来る見えない空気に圧倒され、一瞬体が動かなくなった。
初めてこんなに沢山の人をみた。
駅にいた人だけで、私の住んでいる町の人口を軽く越しそうだ。
ただただすごいの一言に尽きる。
あらかじめ彼が何処にいるかは把握済み。日常のさりげない会話の中でゲットした情報。日時も場所も何度も確認した。
京治君。
私の大好きな人。
小さい頃からの憧れの存在。
きっとこれかもずっとそう。
重いかな。だけど、それだけ彼を想ってるんだ。
あぁ、待ち遠しい。
前回会ったのはいつだっただろうか。
確か冬休みだった。それでも少しの間しか一緒にいることができなかった。
今、私は彼の元に向かってる。こんなに感情が高ぶったのは久しぶりだ。
まだ会っていないのに、会った気でいる。
京治君、元気かな。大好きなバレーやってるかな。
大好きな人が大好きな事。
応援したい。
軽めの荷物を持って彼の元へ向かう。京治君、明日は休みなんだって。何するのか聞いたら家にいるって。だから明日は私と一緒に過ごしてもらいたい。些細なお願いだけど聞いてくれるかなぁ。
とりあえず今日はどこかのホテルに泊まって東京を満喫する予定だ。
長年貯めてきたお金を使い果たしてしまうかもしれないけど、それでもいい。彼に会えるならお金なんていらない。他人からしてみればなんて小さな幸せなんだろうって思うかもしれない。だけど私にとっては最大級の幸福だ。
スマホで地図を見ながら、練習試合が行われているという高校に向かう。土日は出入り自由になるらしく、大きな校舎を横目に体育館がありそうな場所へ向かう。
土日だから割と閑散としている。遠くでトランペットらしき楽器の音がする。学校自体お休みでも部活は行われている。さっきもグランドで陸上部が集団で走っているのを見かけた。
『あそこかな…?』
バン、バンとボールが叩きつけられる音がする。ほんのり開いた窓からは選手が見える。
間違いない、ここに京治君がいるんだ。
体育館の周りには沢山の車が止められている。私からしてみれば、この体育館は市民体育館のようにでかい。さすが都会となると観客の規模も違うわけだ。
感心しながらも、玄関付近にあった階段を登る。上には何個かマットが敷かれていて、保護者の方々が談笑していたり、試合を見ていたり、様々だ。
私は人のいない場所を選んで、ようやくコートを見る。
京治君はどこかな…。彼が梟谷高校であることは把握している。何色のジャージなんだろう。休憩中?それとも試合中?それすらも分からなくて、あちこちを探す。高校数はざっと7校はある。
その中から探すのは……と少し諦めかけていると
「赤葦ぃっぃぃぃい、トスくれえええ!」
と体育館上に響き渡る大きな声。赤葦!!と、聞きたかった苗字が聞こえた。瞬時にそちらを向くと、奥のコートで試合をしていた。はいはい分かりましたとでも言いたげな顔だった。京治君!!やっと見つけたぁ。
喜びと同時に顔が盛大にニヤける。変な顔をしているに違いない。
『京治君……。』
溢れた小さな言葉は空気に混ざってどこかへ行ってしまった。風が私の言葉を運んで、京治君に届けてくれたらいいのに。だけど、今は試合中だし、彼だけに言葉を届ける術はない。今はただ試合を見ていよう。静かに京治君の勇姿を見守る。
どうやら今の試合は勝っているらしい。京治君はボールの中継者なんだろう。スパイカーが打ちやすいように、正確にトスをあげている。結局彼が何をしていてもかっこいいと思ってしまうのだから、恋愛末期だ。
試合に勝ち、いい雰囲気の中で荷物をもって別のコートへ移動している。こっちに来てる…!
私は私の存在に気づいて欲しいやら、恥ずかしくて気づいて欲しくないやらでドギマギする。こっちに来ているかと思ったら、どうやら入り口に向かっていたらしい。
え、もしかしてここって選手の休憩所!?二階に選手の休憩所があることは稀ではないらしい。私は急に慌てだした。今から下に行っても、もう上に上ってきているだろう。どうしよう、…鉢合わせしちゃう!
直前になって恥ずかしさの方が勝って、咄嗟にフロアの端に寄る。ガヤガヤとしてきたから、本当に近づいてきているのが分かる。まずは別のチームが来て、次に梟谷高校のジャージを着た彼らがやってくる。
心臓が破裂寸前だ。
京治君を今日一番で間近にみた。やっぱりカッコいい。口を押さえて声が漏れないようにする。
「赤葦ぃ!今日の俺どうだった!?」
「今日も良かったですよ」
「だろう!?やっぱり俺最強!」
声もちゃんと聞こえる。はぅ、どうしよう。惚れる。いや、惚れてる。
「さぁて、飯だ飯!!」
「はい、そうですね。……、え?」
『あっ』
1人で盛り上がっていると、チラッとこちらを見た京治君と目が合ってしまった。見つかった!!
「すみません、先に食べていてください」
「どうした、赤葦!?トイレか?」
「いえ、違います。」
話しながらこちらに向かってくる京治君。向かっている先は私の所だ。
「名前、なんでここに?」
なんて予想できた質問に返す答えなんて決まっていた。
『京治君に会いたかったから』
それに限る。東京に来た理由なんてこれだけだ。純粋な気持ち。