/愛を語りたい人/


私には高校のとき付き合っていた彼がいた。
彼はバレー部だった。

名前は赤葦京治。

本当に好きだった。
小さい頃からずっとずっと彼だけを見てきた。初恋の人。


バレーをしている彼も、優しくキスをしてくれる彼も、不意に見せる柔らかい笑顔も大好きだった。

でも、高2の時彼は言った。

「バレーに、集中したいから。ごめん、暫くは会えない」

それだけ彼はバレーに集中していた。大好きな主将の木兎さんを始めとして、チームのみんなが大好きだった京治君。その話を聞くのも、そんな彼を見ているのも好きだった。

『うん。バレー、頑張ってね!』


私は自分の精一杯のエールを届けたつもりだった。春休み以来、久しぶりに会った京治君は苦しそうに笑って

「ありがとう」

と言ってキスをした。
思えばそれが彼とした高校最後のキスだったのかもしれない。

高校3年生の時、私たちは自然と会わなくなった。それが別れを意味するという事を理解するのには時間を要した。





彼がバレーに没頭し始めて、正確に言えばあの会えない宣言から4ヶ月が経った。始めは途絶え途絶えながらもしていたメールは、今となってはもう、1ヶ月に1度届くか届かないかというほどになっていた。本当はちゃんと支えてあげたいのに、バレーを頑張る彼の重荷になりたくなくて、メールさえもできなくなっていた。きっと彼は疲れて寝てしまっているだろうとか、勉強をしているのかなとか、色々な可能性を考えて、彼の邪魔をしないようにしていた。私は、頑張る京治君が好きなんだ。
会いたいと恋い焦がれることを重ねて、もうすっかり息は苦しい。彼の事を考えると、会ってはいけないと思うのに、会いに行きたい。


今は何も言っちゃいけない。

来年の4月からは私も受験生になるんだ。気を引き締めていかないと………!このままでは京治君の行く大学の近くには行けない。同じ地域に住んでいれば、きっと会う回数も増える。勉強に熱を注ごう。京治君に会いたいと思う気持ちを、勉強に向けよう。そう思う事で自分を紛らわせていた。


そう意気込んでいるうちに季節は冬の終わりに差し掛かっていた。まだ……、京治君とは3〜4通しか連絡をとっていない。京治君からの連絡のバイブが鳴ると、私の心臓は何時になく盛り上がって、せわしなく鼓動していた。



バレー部は春高が終わったらしい。そして連絡がままならないまま、主将の木兎さんたち3年生が引退して、副主将であった京治君が必然的に主将となった。その連絡が来た時、私はやはりなと思った。話を聞いた時、2年生で副主将とは凄いなと思ったが、ここまで来たらやはり主将は赤葦君しかいなかったのだろう。

きっと京治君はこれから抱えきれないほどの重荷を抱えていくことになる。そうと分かっていても、スポーツの世界など知らない、知り得ない私にとって、京治君の辛さなんて共有してあげらないと、そう感じた。

一人で抱え込まないで、とはよく言ったものだけれど、きっと彼は私には相談してくれない。弱音を吐かない彼はきっと一人で抱えこむ。

ごめんね、京治君。私じゃ何もしてあげられないよ。


3年生の夏の大会が終わったある日、珍しく京治君から電話がきた。と言うかそれは3年生になって最初の電話だった。その声は随分低く、悩んでいるように思えた。ずっとその声を耳にしてきたから、彼が今苦しんでいる事は想像できた。でも、それを言葉にしてくれない。きっと強がってる。でも私はスポーツの世界を知らない。どんなに辛いものなのか、その重責を知った事がない。

なんて声をかけたらいいか分からなくて、その日、私は事前に連絡先を教えてもらった木兎さんに電話をかけた。
京治君が悩んでいます、助けてあげてください。そんな節のことを言うと、木兎さんは"まかせろーーー!"と意気込んでいた。さすが伊達に梟谷の主将をやってない。こういう時のポジティブさは頼もしい限りだ。

数日後、京治君から来た電話にでると、明るい声色をしていた。話によると木兎さんはさっそく励ましてくれたらしい。
私の心の荷も降りた。よかった……。弱っている京治君なんて京治君らしくない。

と…、そうだ、今は彼の心配ばかりしている場合ではない。
私ももっと頑張らなきゃ。

志望校まで、ちょっと偏差値が足りない今、頑張らなくてはどうにもならない。
そうだ、今、私だって頑張らなきゃ。京治君があんなにも頑張ってるんだもん……!

きっと彼は宣言通り推薦で大学に行くのだろう。どこの大学に行くのかは、連絡が取れていないから分からないけど、きっと都内の名だたる有名大学だ。

私も頑張るからね。

そして、秋の中旬の時期に差し掛かった。


京治君と最後に直接会ったのはいつだろうか。きっともう1年以上会ってない。こんなにも会っていないのに、浮気されているだとかは一瞬も思わなかった。それだけ彼を信頼していた。


でも、そろそろ、ううん、もっと前からきっと私は限界だった。彼に愛想を尽かしたとかそういった類のものではなくて、彼に会いたいなという単純な願い。

寂しいよ…。会いたいよ…。

こんなことを京治君に言ったら、無理にでも時間を作ってくれそうで、言うに言えなかった。
私って弱いのかなぁ…。たった一年会えないだけで、こんなになっちゃうんだもん。前だってちゃんと待っていたじゃない。困らせるような事は言いたくないよ。

あぁー、ダメダメ!今は受験があるんだから。
そうやって何度もそう言い聞かせていた。


そうしてあっと言う間に月日は流れた。




今日は私の高校の卒業式。

結局、彼の大会が終わっても、受験期の最中京治君と会うことは出来なかった。
自分はというと、そこそこ有名な国公立大学に見事受かった。この間知らされた結果だ。

だけど、どうしても京治君には聞けなくて。

せっかくの卒業式。
悲しい気持ちでいては、晴れやかな卒業はできない。心が弱い私。どうして強くなれなかったんだろう。京治君の近くの大学に行くって決めてたのに、肝心な事を聞けない。彼が今どうしてるかも、分からない。どこの大学に進学が決まったのかも分からない。どうして聞けないの。自分はこんなにも臆病だったんだ。


その日の夜、京治君からの着信があった。
私は返事をする気にもなれなくて、ぐっすりと眠った。彼からの着信は朝起きて見たけど4件あった。

何故か分からない。京治という文字を見るたび心臓は跳ね上がるくせに、何を言われるかが怖くて電話にでる事ができない。

そしてそのままずるずると引きずって、連絡も取らないまま。私たちは自然消滅した。どちらが別れを告げたわけでもない。

最悪な人間だと分かっている。こんなにも京治君でいっぱいの心を、無残にもこういった形でこなごなにしてしまった。

好き、ばかりでは足りなかった幼い恋。2年間も会ってない私たちの恋は終焉を迎えた。