/きっとただの願望/
ずっと探していた面影を、ようやく見つけた。この間行った合コンで京治君の大学が判明した。
合コンの印象といえば、京治君のことだけ。あれ以来彼で頭がいっぱいだ。
京治君が私ではない誰かとキスをしている所を想像してみた。正直言って反吐が出るくらい嫌だ。その唇は私のためにあってほしいし、私のためだけに愛を轟いて欲しかった。
一生離したくない存在だったのに、離れてから気づいた。私はこんなにもあなたを愛していたのだと。
愛してる。
そんな言葉しか見つからなかった。
またその腕で抱きしめて欲しい。優しくキスをしてほしい。その上だって、全部全部京治君がいい。
好きがこんなに辛いなんて思いもしなかった。恋ってこんなにも胸がギュッとなるものだって気付かなかった。
好きじゃ足りない。
……苗字は赤葦がいい。
なんて女々しいんだろう。分かってた。
きっと京治君は私じゃない人を見つけて、一緒にいる。想像するだけでも嫌なのに、その様子が頭から離れない。きっとすごくお似合いのカップルで、私と比べ物にならないくらいいい子で、可愛い子だ。勝ち目なんてない。大雑把で、運動しか取り柄がないような人間だ。
それでも、京治君を見たかった。また付き合ってほしいなんて大それたこと考えちゃいけない。私はかつて、彼を裏切ったのだ。そんな奴がまた隣にいていいわけがない。
だけど見るだけならいいでしょう。
遠くから見るだけなら、許してよ。
私は複雑な想いで、京治君が通う大学の体育館にやってきた。友達を巻き込んでしまったが、目的は言わず、ただ一緒にバレーを見に行って欲しいとお願いした。友達にもお目当の人がいるようで、二つ返事で了承してくれた。
体育館には既にギャラリーができていた。この大学の人気度がうかがえる。バレーは京治君のお陰で知った。ルールも大体は把握できている。ただ見ているだけでも面白いが、それが彼絡みとなると見方は変わってくる。
今は練習試合を行っている。圧倒的な点差をつけて、彼の大学が勝利した。確かに木兎さんと京治君のコンビネーションは、目を見張るほどすごかった。そして生き生きしていた。高校の時、初めて見た時みたいな興奮があった。
馬鹿だな、私ってば。見たら愛しくなるばかりってなんで気付かなかっただろう。見れば見るほど欲張りになるって、なんで想像できなかったんだろう。
早く離れなければいけないのに、名残惜しさからか、地面から足があがらない。
「名前?どうしたの?」
友達も心配している。私は平然をよそおった。
『ううんなんでもないよ!ちょっとトイレに行ってくるね』
「うん、わかった」
上手く誤魔化せてるといいんだけど。私は特に用事もないがトイレに向かった。そして、トイレに行って鏡を見る。それと同時に笑顔の練習をした。上手く笑えない自分がいる。心が苦しそうだった。
私は気持ちを落ち着かせてから、トイレを後にした。早く友達の元に戻ろうと早歩きをしていると、急に呼び止められた。
「名前ちゃんか??」
『木兎、さん……?』
彼は先ほどまで練習試合終わりのストレッチをしていたはずだ。
「おーやっぱり名前ちゃん!!元気だったかー?」
『どうしてここに?』
「飲み物が無くなったから、買いに来た!」
相変わらずのテンションにちょっと安心した。
「赤葦呼んでくるか?あいつ寝言でも名前ちゃんの名前言ってるぞ!」
その単語を聞くだけで心臓が跳ね上がった。京治君が寝言を言っていることより、私の名前を呼んでくれていた事に驚きを隠せない。木兎さんは嘘を隠せるようなタイプじゃないだろうから、恐らく真実なんだろう。
「ってあれ、別れたんだっけ?」
『はい、……全部私が悪いんです。京治君は何も悪くないんです』
「赤葦、別れてから相当荒れてたぞ。一時期自主練に付き合ってくれなくなってな〜」
『あ、それは、その、ごめんなさい』
「いや、名前ちゃんのせいじゃなくて!赤葦って意外と女々しいとこあんだなって思ってな」
木兎さんがズバズバ言ってくる。勢いに押されて上手く言葉を発することができない。
『あの、京治君には、ここで会ったことは秘密にしておいてくれませんか?』
「ん?なんでだ?」
『きっと、もう私の顔も見たくないと思うから…』
「それはないな!だって、」
何を根拠にしているか分からない自信だ。
「木兎ーー、この後どうするー?」
するとお仲間から声がかかったらしい。
「おーーう!今そっちに行くーーー!」
木兎さんも大きく返事をする。そろそろ時間らしい。私は大人しく退散するべきというわけだ。
『木兎さん、今日はありがとうございました。また、何処かでお会いしましょう』
「え、あ、おう。あー、あ、……行っちゃった」
いつどこで京治君に遭遇するか分からないから、早くこの場から立ち去らなきゃ。京治君が死ぬほど私を憎んでいたとしたらどうしよう。……どうしようもないか。
こんな勝手な女、また好きになってくれるはずない。
(赤葦、まだ名前ちゃんの事好きだって言えなかった……)