/偽りのない愛言葉/
「おい、大変だーーー!木兎が女子と話してたぞーーーー!!」
バレー部員の間ではその話題が持ちきりだった。女の気配がなかった木兎さんに春が来たらしいという、他の3年部員からの証言だ。
なんでも、木兎さんが飲み物を買いに行っている間に、女子と話していたらしい。
それが同じ大学の人なのか、練習試合を見に来た他の大学の女性なのかは定かではない。
「おいおい一丁前に彼女作ってんのかよ!」
「だーから!!彼女じゃねぇって!!」
木兎さんは否定している。つまりそれが真実だ。木兎さんは嘘が苦手だ。嘘をついているとしたらすぐに見抜ける。話していた女子が彼女ではないことくらい安易に予想できる。
しかし奇妙な点がある。
木兎さんがチラチラ俺を見てくることだ。
何もやましい事がないのであれば、俺を見てくる必要はない。何か隠しているようだ。
取り敢えず何を隠しているのかを探っていこう。
「じゃあ、誰なんですか」
「…!いや、友達っていうか、なんていうか」
明らかに挙動不審である。それも俺に話しかけられた途端だ。この様子だと絶対裏がある。
「友達って、同い年ですか?」
「後輩、だな」
後輩の友達……。なんとも奇妙な言葉だ。
「その人は俺も知っている人ですか」
「……あ、の、えっと、…知らねぇ!」
これは絶対に知っている人だ。しかし俺と木兎さんが共通して知っている女友達なんて限られている。高校の時のマネージャーである白福さんと雀田さんは木兎さんと同学年であるため後輩とは呼ばない。他に誰かいただろうか。
それにしてもこの態度、怪しすぎる。
「もういいだろ!絶対に言うなって言われてんだから!!!………あ!」
木兎さんがバカで良かった。とうとう口を割ったようだ。
「やっちまったーーー!!」
「…それで、誰なんですかその人」
「……言っても怒るなよ」
「怒るほどの人なんですか」
「…まぁ、赤葦だったら怒りそうだよなー」
俺だったら怒る人?余計分からない。そんな女性と知り合いになった覚えはない。
「名前ちゃん」
木兎さんの口から出るとは思えない単語だった。体全体が硬直したように動かなくなった。
「は?」
「だーかーら、名前ちゃんって言ってんだろ!!」
まってくれ、何故彼女がここに来たんだ。整理がつかない。
「ふざけた事言わないでください」
「やっぱり赤葦ちょっと怒ってんじゃねーか!!!」
「そりゃ怒りたくなりますよ、なんで直ぐに俺を呼んでくれなかったんですか」
「…俺と会った事赤葦には秘密にしておいてくれ、って」
彼女が頑なに俺を拒む理由はただ一つ。俺が彼女を長い間1人にしていたからだ。そして幻滅した彼女は、連絡さえ拒んだ。全ては俺のせいだ。俺がもっと強かったら、寂しい思いをさせなかった。だいたい、彼氏と彼女なのに、3年も会わなかったら自然消滅するだろう。
「その時の会話、事細かに教えてください」
「別にいいけど、落ち着いて聞けよ」
そして木兎さんが口を開いた。彼女がここに来た理由は分からなかったが、俺が彼女に会いたくないと思っていると思い込んでいるらしい。そして、別れた原因は全て彼女にあるという。
違う、全部俺のせいだ。俺がもっと大人だったら辛い思いをさせなかった。
「木兎さん、俺がまだ名前のこと好きだって知ってましたよね」
「し、知ってた」
「なら尚更呼んでくださいよ」
次、どこで会えるのか分からない。こんなチャンス滅多にないというのに。思わず怒ったような口調で木兎さんを責めてしまう。木兎さんは悪くないとわかっているのに。
「でも呼べる状況じゃなかったんだって!!まじで!」
「分かりました、…取り乱してすみません」
「本当、赤葦って名前ちゃんのこと好きだよな」
「当たり前です」
彼女以外に目が向いた事なんて一度もない。新しく彼女を作れば、状況も心も変わると思っていた。だけどそれは根本的な解決にはならなかった。
正直、彼女と自然消滅した事実を突きつけられてからは何もかもが手につかなかった。好きなバレーも勉強も。
時が経てば経つほど想いは強くなっていく。
ずっと先の未来でも、結婚なんて彼女と以外に考えられないほどだ。子供だって名前との子供がいい。一緒に幸せになりたいのも、同じ名字になりたいのも全部名前だけだ。
こんなにも愛しい彼女を俺の過ちで失った。
会えるんだったら強くもう一度会いたい。
会って、謝って、抱きしめたい。
もうこの腕は彼女以外を必要としていない。
愛してる。
この言葉を使うにはまだ早いのかもしれない。ただ、使ってしまいたくなるくらい、恋心は彼女にしか向かない。
次は、いつ、どこで会えるんだろう。
そもそも大学は近くなのだろうか。
知りたい。
成長した今の彼女をもっと知りたい。
まだ好きだと思ってくれているのなら、会ってほしい。
でも、既に彼女に新しい彼氏がいるとしたら?
既に彼女の初めては奪われているとしたら?他の男を愛しているとしたら?
考えただけで嫉妬で狂いそうになる。
この唇に触れていいのも、抱きしめていいのも、一緒になりたいのも名前だけ。
今更他の人なんて考える事ができない。
「名前、どうでした?変わってました?」
「すんげぇ可愛くなってた。前も可愛かったけどな!」
そうか………、俺は3年強も会ってない。3年もあれば容姿の変化はあるか。
…ダメだ、話せば話すほど想いが溢れてくる。
「なんか分かんねーけど、また何処かで会えるんじゃね?」
「…だといいんですけど」
会いたい。会いたい。会いたい。