隣にいる人
私には異性の親友がいる。

異性同士で友情は成立するのかと疑問に抱く人が少なからずいると思うが、私は全然あり得ると思う。
現に私と徹君の仲はそう言った雰囲気がある。


『徹君、購買で牛乳パン売り切れてたよー』

部活関係で、教室から姿を消していた徹君が帰ってきた。彼はいつものごとくニコニコ笑っている。が私に言葉を聞いた途端、彼の顔が濁った。よっぽどショッキングな出来事だったらしい。


「え、なんで!いつもはまだある時間なのに!俺、今から買いに行くところだったのに!」

嘆く徹君の姿を見て、クラスメートはクスクス笑う。

『ふっふっふ。そんな徹君のために、ラス1を買ってあげたよ。』


私は、徐々にその牛乳パンをカバンの中から出していく。全貌が明らかになると、彼の顔も徐々に明るくなっていく。この顔が見たくてワザと遠回りした甲斐があった。

「ありがとう!やっぱ名前は俺の事分かってるね。これって何かな、愛かな」

『そうだね、愛だよ』

こうしたふざけた会話も、異性とはなかなかできる事ではない。幼稚園から今の今までお互いにいい友達をやっている。彼との会話は日常の一部となっている。


徹君が遠征や合宿なんかでいない時、私は途轍もなく寂しくなる。それは徹君と会話をしていないからであって、姿を見ていないからでもある。そんな時、必ず夜に電話をしてくれる。本当に意思疎通しているみたいに、タイミングがいい。寂しいと思っている時に電話をくれる。徹君も部活で疲れているだろうに、こうして電話をしてくれるのが嬉しい。



時々、部活の仲間だろうか、から茶化したような声が聞こえてくる時がある。あと岩泉君からの怒号が聞こえてくる時もある。もちろん徹君が電話をくれるのは就寝間際の夜のため、夜のテンションで電話をする徹君が煩くて眠れないためだろう。

徹君のテンションがウザいという人もいるが、それさえも心地よく感じてしまう私は、恐らくおかしいのだろう。

「名前、お礼は何がいい?」

徹君は律儀に(いやお返しをするのは当然なのかもしれない)お返しをくれようとする。毎度毎度のことだから、私も図々しくお返しを考えていたりする。

『今回は、ゼリーで手を打とうじゃないか』

「いつものあれね。オーケー」

今回はっていうよりも、今回も、だ。私には好きで好きでたまらないコンビニ限定のゼリーがある。値段もお得で、3個セットのため、いつも彼におねだりをする。徹君は悪い顔をするでもなく、潔く買ってくれるため、食べる時もすっきりした気分で食べる事ができる。

コンビニの店員にはもう私たちの顔を覚えられているのか、また来たよこいつら、とでもいうような視線を浴びる。もう慣れた。


こういう会話をするという事は、必然的にその日は共に帰路につく事を暗に意味する。一緒に帰ろうと約束するでもなく、わたしが教室や図書室で暇つぶしをしながら徹君の部活終わりを待つ。

汗をかいたとは思えない涼しい表情で私を迎えに来る徹君と一緒に並びながら帰る。

こういうことをするから"お前ら、付き合ってるのか?"と聞かれるのだ。断じて付き合っていませんし、そういう雰囲気になったこともありません。私たちに甘い雰囲気など訪れず、友情の延長線上のような関係で、世界は廻っている。


当分このままでもいいし、むしろ一生こういった関係が続いていけばいいとも思っている。ただ人生というものはそうはいかず、きっと互いにいい人ができて、子供が生まれる。
そんな未来は想像したくないし、想像できないのが本音だ。

未来でも徹君が隣にいて、笑ってくれるのが当然だと勝手に思い描いている。それがどんな形であれ、隣にいるのが徹君だといいなぁ。


そんなどうしようもない事を考えていると、

「名前〜、疲れた〜」

甘えるような声で、私にすり寄ってくる。その一連の動作は猫のようだ。

『お疲れ』

私よりも何十センチも身長が高い彼の頭を撫でるのは結構大変だ。でも撫でてあげるのは嫌いじゃないので、どんなに窮屈でもそのワックスが取れかけている彼の頭を撫でる。といっても、スポーツマンだから、ワックスなんて元からそんなについていないのだけど。

「あ、そういえば、今度の土日、県外と練習試合あるんだよね。」

恐らく徹君自身今日の昼休みの間に知らされたことだろう。

『どこかに遠征?』

「いや、相手のチームが来てくれるみたい」

『じゃあ、会えなくならない…?』


徹君に会えない間の私はどうもだらしなくなってしまう。

「大丈夫。会える会える。……応援くる?」

『うん、行く。行かせていただきますとも』

「そうこなくちゃね!」

ここだけの話、岩泉君によると、私が見に行く練習試合はかなり調子がいいらしい。私にはよくわからないけど、長年一緒にいる岩泉君がいうからにはそうなんだろう。しかし徹君は私がいなくても、強いから、実際はいてもいなくても同じようなものだろう。それに私が行くといつも以上にウザくなるというし。

でもなんだろう、なんか、こう、嬉しいよなぁ。

「よーし、頑張るぞ!」

『期待してるよ、と、お、る、くん』

「うぅ、妙にプレッシャーなんだけど!」

徹君が怯んだところで、私は彼にデコピンをかます。そしてその後、背中を強く押すのだ。

「イダッ!」

『シャキッとしなさいなキャプテン』

「名前ちゃんて本当俺の扱い上手いよね。やる気になっちゃうじゃん」

本当、徹君は可愛いなぁ。やっぱり隣には徹君がいてほしい。
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