毎日が色づく
四月も半ばになり、入学や学年が変わったことに伴う普段と異なる校内の雰囲気も落ちついてきた。
とは言っても、今現在はホームルームが終わり放課後になったため、校内のあっちこっちに生徒たちの姿があり、にぎやかな雰囲気になっていた。
もう四月中旬だというのにまだ桜が咲いていない。
桜前線は九州から始まって北海道で終わる。その中でも東北地方の桜の開花は毎年遅い方。気温が例年よりも低く、桜の開花もこれまでで最も遅いとニュースでアナウンサーが言っていた。
そんな中、教室を慌てて飛び出す少女がいた。その少女は廊下を早足で歩き、通り過ぎていく。自然に少女の口元が緩む。嬉しさが表に出たのか、顔の表情も優しげな笑みに代わる。
そして辿り着いた先は、彼女の所属しているバレー部の部室がある建物。所謂体育館である。
『お願いします!』
少女の正体は、教室の掃除を急いで終わらせた名前であった。体育館に入る際には"お願いします"の挨拶は必須である。
名前はさっそくジャージに着替えるべく、女子の更衣室に向かった。
彼女が向かった更衣室では、既に何人かが着替えていた。
「名前、最近凄く楽しそうだね。」
同じくマネージャーの友人が、自分の事のように嬉しそうに語った。友人とは名前の親友とも呼べる存在の"ゆんちゃん"である。名前を見る友人の表情は、今日も優しそうに笑っている。
『そう?』
「うん、マネージャーになってから楽しそう。…及川と何かあったの?」
『べ、べべ、べつに何にもないよ!』
言われた本人は明らかに動揺している。何かあったの?と聞かれたら何もない。かと言って、何もなかったのかと聞かれればそうでもない。言うほどの事でもない出来事、だが自分にとっては大切な事が起きたのは事実だ。
それは名前が及川のファン1号になったことだ。昨日、恥ずかしながら及川のファン1号になったので、その嬉しさに昨日と今日は、一日中テンションがMAXの状態であった。
「絶対何かあったでしょ?教えてくれてもいいじゃない?」
『……うっ。それじゃあ練習終わってからでいい?』
「分かった。それじゃあ先に体育館行ってるわね」
親友にはいかなる嘘をつけない質の名前は、渋々言う約束をすると、親友は調子の良い笑いを残して先に行ってしまった。
彼女は他人の恋バナに関しては常に目を光らせている。ましてや名前の事となるとそれは加速し、過保護なほどまでになる。その理由は、名前が大親友であることと、これまでに親友の恋愛話を聞いたことがない事にある。まだ中学1年だが、既に同い年に恋人関係にある人々もいる。その中で、初めて大人しめな彼女の恋の話が浮上し、少し過剰に反応していた。
名前は親友の過保護さに苦笑しながらも、内心はとてもありがたいと感じていた。自分のことをここまで考えてくれている人がいると思うと、嬉しさばかりが溢れてくるのである。
とは言え、彼女は及川と自分の関係が、恋と呼ぶに相応しい関係なのか分からなかった。現時点では、所謂ただの友達という関係の彼ら。例え名前に恋心があったとしても、及川にその気があるとは限らない。その逆もまた然りである。
しかし、どちらか片一方、または両方に恋心がある状態を人は一般的に"恋"と呼ぶのだろう。