近づく距離感


自分の気持ちに素直になるってどういうことなんだろう。
どうすれば素直になれるんだろう。

そう考え始めてから少なくとも一ヶ月は経過した。何も行動を起こさずに毎日を過ごしていた。

相変わらず体育館に徹君を応援しに来た女子達を見るとちょっと嫌な気分になるし、それを見て嫌な気分になる自分にも情けなさを感じる。なんて自分は小さな人間なんだろうと。

そうこうしているうちに、季節は球技大会の時期に移り変わろうとしていた。

「名前ちゃんって運動神経良い方〜?」

突如、席に座っていた徹君が回りの友達の輪から逃れて私に聞いた。息が止まりそうになった。

窓の外をずっと眺めていたから、手が届くような距離に徹君が来ていることには気づかなかった。生温い風が私と徹君の頬を撫でて教室に入り込む。その風さえも感じられず、拳をギュッと握る。

『え?うーん。運動はちょっと苦手…かな?』
「へぇー…、それじゃあ球技大会は何の競技に出場するの?」

しまった、決めてなかった。

気がつけば球技大会はすぐそこまで近づいていた。
汗ばむまではいかないけれど、きっと外の陽気の助けを借りて、野外競技も室内競技も白熱するんだろうなと、どこかワクワクした心持だった。自分がクラスの役に立てるとも想像したことはないが、尽力はしたい。

『まだ、決めてないの』
「じゃあさ、バレーやってみようよ!俺、球技大会までに教えるからさ!」
『本当?だったら、やってみようかな……?』

という会話はさっきのことだった。夢のような約束。それが信じられなくてまだ心臓がドキドキしている。

私がぼんやりと黒板を眺めていると、ゆんちゃんもまた同じように黒板に目を向け口を開いた。

「最近、及川と仲良いね」

一週間に何回か耳にする言葉をゆんちゃんがポツリと呟いて思わず目を見開いた。ゆんちゃんの顔はにやけている。

『そうかな?』
「うん。仲良いと思うよ〜。名前だって及川の事嫌いじゃないでしょ?」
『ゆんちゃん、それわざと言ってるでしょ』
「えー、何?」
『そういう話をされると、恥ずかしくなるからやめてー…!』
「いや、でも少なくとも及川だって名前に毎日話しかけてるじゃない」

意外な事実に驚きを隠せない私とは裏腹に、柔らかに話すゆんちゃんの言葉を嬉しく思う私がいる。言われてみてから考えると、入部してから私と彼が話さなかった日なんてなかった。

『…徹君は優しいし、同じ部活だからでしょう?それに徹君が話しかけてる女子は私だけじゃないから』

私が言っていることも事実なので、自分で言っておきながら一人で虚しくなる。

「なんでこんなネガティブなのかなー。ちょっとはいい方向にもっていってみようよ。」

それは私が後ろ向きな性格だということだろう。そうだとしたら自分に自信がない証拠だ。ゆんちゃんに言われた通り、私は今までちょっとネチネチ考えすぎたみたい。

『そうだね。…そういうゆんちゃんは好きな人いないの?』
「え、そういうって名前はやっぱり及川の事好きなの?」

話を逸らそうとして出した質問に質問返しされた。これは言葉の綾だ。まんまとハメられたような、自分からハマって行ったような、そんな気はしたけど今はそれどころではない。

『あ、えっ、………。』
「えっと、ごめん。ちとからかいすぎた。」
『ゆんちゃん、酷い!』

そうだ、まだゆんちゃんにはハッキリ言っていなかった。

私は徹君が好きだ。それは憧れではなくて異性として、恋愛的な意味で。そう気づき始めたのはつい最近のこと。


距離はまた一歩、また一歩と近づいて行く。