騒がしい恋慕


球技大会開始時刻まであとちょっと。

各々のクラスの担任の先生はまだ教室には来て居なくて、グラウンドの方でライン引きや準備に追われている様子が教室から窺うことが出来る。陽炎が立ち込めたグラウンド内たくさんの影が行き来しているのが見えて、準備が大変だなと他人事のように眺めていた。

先生がいない間は、私がクラスを纏める事になっているが、普段とは違う雰囲気に気が緩んでしまったのか、やりたい放題の教室と化している。副委員長の子はバスケ部の男子だったため、体育館の準備に追われていた。だから私が言うしかないのに何を言っても聞いてはくれないので諦めかけていたその時。

「はいはーい、みんな、ちょっと聞いてくれる?」
『徹君……!』

徹君が何時もより声を張り上げて言えば、クラスは静まった。

「どうぞ、名前ちゃん」
『ありがとう!』

彼はオドオドする私を見て声を出してくれたらしい。…徹君の事、好きになるばかりだ。
私は徹君にトキメキながら、先生に伝えるように言われた事を手短に説明した。

***

言いたいことも言い終えて、みんなそれぞれの種目に散らばった。陸上部の生徒はグラウンドで再度、競技用のラインを引きなおしたり、水を撒いたりして大会に備えている。

準備をしている人の横を、浮き足立った女子生徒たちが憧れの先輩を目指して移動してる姿が見える。その集団から準備を阻まれた担当の陸上部の生徒はとてもやり辛そうに眉を顰めていた。同情します…。隣で一緒に歩いていたゆんちゃんも苦笑いしていた。


それを横目で観察しながら体育館の入り口付近に差し掛かると、中では出場予定と思われる男子生徒がたくさん集まって、既にバスケの試合が行われていた。

今試合が行われているのは、どこかのクラスの男子対5組の男子。名前は忘れてしまったけど、5組で見たことのある顔があってすぐに分かった。

及川君が居ないか目を巡らせて見ると、ドアに背を預けてゲームを眺めていた徹君がいた。以前説明したように、バレー部の生徒はバレーの種目に出てはいけないのだ。

彼に話しかけようとして、"徹君の所に行ってきていい?"とゆんちゃんに声をかけるとニヤっとされた。ちょっと恥ずかしかったけど、ゆんちゃんとはお別れをして徹君を目指した。

特に用もないのに徹君の元へ走って行くと、徹君と不意に視線が交わった。その顔が珍しく曇っている気がする。いつもなら丸いボールを手にすると嬉しそうな顔をしそうなのに、だ。種目がちょっと違うだけでこんなにも表情は変わるものなんだ。

「あれ、名前ちゃん?どうしてここに?」
『え、うんと。応援しにきたよ』

うわー…恥ずかしい!何言っちゃってるんだろ、私。

「……俺、頑張ってくるね!」


凭れたままバスケットボールを持て余すように、手で遊びながら私を見た。その顔には先ほどの曇りはすっかり消えていて、綺麗な笑顔が咲いていた。

『徹君の試合はいつ?』
「次なんだけど、うわー、緊張してきたー!」

今度はちょっと自信有り気に言ってみせると、彼らしく笑った。徹君はそうでなくちゃ!

『頑張って…!いつもの通りの徹君で』
「了解!」

片手でピースをした瞬間、前の試合終了のブザーが鳴った。

「名前ちゃんは何時から?」
『1時間後だよ〜』
「じゃあ、早く試合終わらせてちゃんとファン1号の応援をしないとね!」

急に頭に温かい何かが乗せられて思わず固まった。

その時、初めて頭を撫でられていると理解して、胸の鼓動が急速に早さを増して、頬は紅く染まるばかりだった。突然の出来事に上手く言葉が出てこなくて、混乱していると遠くで誰かの笑い声が聞こえて我に戻った。