近距離シグナル
徹君達は無事に一回戦を突破した。2回戦以降は2時間後らしいので、今日はしばらく何もすることがないという。さっきの試合は、徹君の身長が十分に活用された試合だった。少なくとも相手の平均身長よりも10センチは大きかった。
試合が終わったと同時に何となくがっかりした気分になる。それは勿論、徹君に失望した訳じゃない。――徹君を応援する人の多さに、悲しくなったんだ。
徹君の試合になると同時にいつの間にか、人集りが出来ていて、四方八方から徹君を応援する黄色い声が上がる。背も高くて脚も長いし、顔もイケメンな上にどこかセクシーに感じる。
そんな人を女子はまぁ、見逃す筈もなく、徹君の一挙手一投足にきゃぁきゃぁしている。
別に私がガッカリする必要はないのに。でも徹君の事が好きなんだから、結局はこれはヤキモチ、とか嫉妬だとかそういった類のものに分類されるだろう。
私は淋しさを誤魔化すように、彼の試合が終わってから直ぐにバレーが行われる体育館にやってきた。
『痛た……ッ』
その一言は、何ともない言葉だと思う。私「痛い」と言う言葉に笑みを消してゆんちゃんが敏感に反応した。
「……大丈夫?どっか打った?」
『ごめん、大丈夫。』
徹君との特訓の成果がこの腕の痣だ。普段は運動をしない私の腕には無数の痣ができている。
「それならいいけど…。無理はしないでね。よし、勝ってくるぞ!」
『うん!』
「ってかさ、名前髪の毛邪魔じゃない?」
驚異の早さでいつもの笑顔へと戻るゆんちゃんを凝視しながらも、私は『そう?』と敢えて騙される事にした。
「うん、ちょっと邪魔そう。」
『でもゴムとか持ち合わせてないしな…』
「私持ってるし…、結ぶ?」
『ゆんちゃん…、その手は何?』
ゆんちゃんは両手をわきわきさせてその手を私に近づけてくる。その表情は普通ではなくて…。
***
――いよいよ試合が始まった。
相手は貫禄のある2年生。
私は自分のできるだけの事をしたけど、2年生の力に圧倒されて負けてしまった。
「あぁー、負けちゃったね」
『そうだね。…でも凄く楽しかったよ!』
「うん、来年こそは頑張ろう」
来年は同じクラスになれる保証はないけど、球技大会があることには変わりない。
……そろそろまた男子のバスケの方に行ってみようかな。
「名前ちゃん、お疲れ様。ちゃんと特訓の成果が出てたよ!」
と思った矢先、徹君に話しかけられた。いつもとは少し反応が鈍くて、どうしたものかと思った。
『本当?ありがとね、ここまで出来たのは徹君の指導のお陰だよ!』
「ううん、名前ちゃんが頑張ったからだよ。」
『ありがとう…!あ、徹君の試合あと少しだよね』
「そうだった!ごめん、行ってくるね」
徹君が、試合前なのにわざわざ話しかけにきてくれたっ!妙に嬉しくて気持ちが高揚した。
(ねぇ、岩ちゃん!名前ちゃんのあの髪型見た!?)
(あぁ"!?)
(すっごく可愛かったんだけど!)
(今俺ら敵だろーが!さっさとあっち行け!)
(はぁ、ポニーテールとかさぁ、本当に反則だよねぇ)
(俺の話聞けボゲェ)