込み上げる


男子のバスケは2回戦目。

相手は二年の時に優勝したという年上の組の人たちだ。身長は確然に高くなっている。うちのクラスで唯一身長の高い徹君を中心にして攻めるのが妥当だろう。


私は自分の試合が終わった後、遅れて男子のバスケの体育館にやってくると、私たちのクラスはアップをしていた。徹君に話しかけようにも群がる女子に割って入る勇気はどこにもなくて、ただ、アリーナの二階で彼の活躍を見守っていることしか出来なかった。


徹君は整列して挨拶を交わす時に、私の方を見てアイコンタクトをくれたけれど、心の中でしか頑張れと言えない。

2回戦の試合が始まって、5分くらいした頃。順調にパスワークを施していた徹君の動きが鈍くなったのが分かった。ゴールしてからのリスタートの時に一瞬、相手からのプレスがキツくなった後だった。一緒に出場しているクラスメイトは心配そうにチラッと徹君を気にしているのが分かる。


それは明らかに怪我での不調だと確信するしかない。私には足を引きずっているように見える。でもあと少しで試合は終了だ。彼のことだから途中で逃げるなんてことはしないだろう。



1Qが終わると及川君はメンバーチェンジし、サッと人目を掻い潜る様に体育館から出ていった。それを目で追って確認すると、下で試合をしてる男子の視線を感じて言葉ではない、「自分の代わりに及川を追ってほしい」という様な意思を受け止めて彼を追った。


「えぇ、及川君大丈夫かしら?」
「心配ー…」

隣の女子は心配する素振りを見せて、後の試合は目もくれようとはしない。徹君目当ての試合観戦だったようだ。

チクリ。

いつもとは違う風に胸が痛んだ。


広い校内にはたくさんの死角がある。それはメリットもあり、デメリットも兼ね備える。クラスが試合しているからそう遠くには行っていないとは思う。だが死角を順に回っていったのならキリがない。

案の定徹君がどこに行ったのか探しているうちに、校舎裏で項垂れている徹君を見つけた。

『徹君……!』
「名前ちゃん……。」
『……怪我、見せて』
「えっ、え。」
『足怪我、してるでしょ』

確信して言葉を告げてみると、苦笑しながら足を見せてくれた。目に入ったのは、赤く腫れて膨れる足だった。

痛々しい。こんな状態で頑張ってたんだ。……いつ挫いたのだろう。

『ど、……した、の、……これ?』
 
想像もしていなかった事態に声を震えさせながら尋ねると、徹君はゆっくりと私の手を取って両手で包み込んでくれた。

「ちょっと捻っただけだから。だからさ…、そんな顔しないで。」

気にするよ……。だって好きな人がこんな状態になってるんだもん。私は込み上げてくる何かをグッと堪えた。

『痛い、よね』

「うん、……まぁ」

どうも端切れの悪い返答に、相当無理していたことが分かる。きっと今日の朝顔が曇っていたのは、その時すでに足が痛かったのだろう。どうして気づいてあげられなかったんだろう。

『氷、持ってくるね』


私にできることをしなきゃ。彼がこんなにも苦しんでいるのに、何もしないで見ているなんて出来ない。

「大丈夫だよ!これくらい!へっちゃらへっちゃら〜」
『でも、徹君今日の部活休みたくないでしょう?』
「……っ、名前ちゃんには何でもお見通しだなぁ」
『ずっと見てたよ……徹君のファン1号だもん』

本当はファン1号だから見てたんじゃない。好きだから見ていたんだなんて、まだ臆病な私には言えない。

その日、結局徹君は部活に出ることができなかった。