日常
球技大会も終わり、ようやく日常が戻ってきた。束の間の休息である。
私たちは中1だから卒業まであと2年弱ある。まだまだ伸び盛りの彼らはこれからどんどん成長していくんだろう。
今、高く高く空に登り詰めた太陽。それは丁度私たちの真上で笑っている。
燦々と地面を照りつける太陽は、祝福なのかそれとも嫌がらせなのか、判断がつき兼ねるほどだ。ようやく猛暑から残暑に変わったとはいえ、日本の9月という時期の暑さは独特の粘り気を持っていて、学生のほとんどはその気候に悩まされていた。
勉強するにも机は湿っていることが多い。今もこうして昼休みだというのに、一部を除いた多くの生徒が日差しから逃げるように教室でへばっている。今年の夏は暑かったな…。バレー部でも、暑さのあまり多目の休憩を挟み、水分補給していたのも記憶に新しい。
私は蒸し暑さに負けないようにと、次の授業の予習をすることで暑さを紛らわしていた。
「ねぇ、名前。次の授業の予習した?」
『うん、一応やったよ』
「ごめん!それ見せてくれない?」
『もちろん、どーぞ』
「ありがとー。助かるわー」
友人のゆんちゃんは、今日の日付けの出席番号であるために、毎時間のように当てられている。私は快く英語のノートを渡した。次の時間の先生は比較的怖いので、予習をしてきていない人にとっては地獄だ。
まだ中学生だから基本的には予習は必要ないが、前回の授業でその英語の先生は"次の時間までに、問4をやっておきなさい。誰かに当てますよ"と恐怖の言葉を残して去って行ったのだ。基本は出席番号の人が当てられるが、その日付に月の数字を足したり、引いたりもするので誰しも油断はできない。もしかしたらかけちゃうかもしれない。あ、今日の日付は幸い割り切れない。
「うわっ!一足遅かった…!」
と後に続いて聞こえたのは及川君の声だった。
「ちぇー、俺もノート見せてもらおうと思ったんだけどな」
及川君にだったらノートを見せてくれる女の子なんて沢山いるだろうに。
『授業までまだ時間あるし…、教えようか?』
「えっ、いいの?」
『うん!えっと、いつもお世話になってるお礼…?』
自分でもなぜ疑問系になったのかは分からないけど、徹君は口角を上げた。本当は、もっと徹君と話したかった自分のエゴ。好きな人がこんなにも近いなら嬉しいと思うのは、乙女心って奴なんじゃないかなぁ。
「ラッキッ、ありがとう!」
彼は笑った。
本当に幸せそうに。
彼は、ただ自分の感情を偽りなく表してるだけなのに。男の人に使う表現じゃないのかもしれないけど、その顔がとても綺麗で……それに、可愛い。無邪気な笑顔に何人が惹かれて、何人がオチてきたんだ。つくづくモテる人は大変だ。
私の前以外で、そういう表情しないで欲しいと本能が叫んでいる。
あー!どんどん欲張りになっちゃう。
「名前ちゃん……?」
『え?えっと、ここの問題はね……_』
急にふつふつと胸の奥からせり上がるようにして湧いた感情は、独占欲の塊だった。今こうして話していることに、私は徹君の前で精一杯の幸せを覚えた。
すると、突然徹君が顔を上げたため、わたしは驚きのあまり跳ね上がってしまった。
今、目が合っちゃったよ!こんなに…こんなに近いから、身近に彼を感じる。
「えー、もしかして今俺に見惚れてたの?」
悪戯っぽい笑顔。本人は冗談のつもりで言ったんだろうけど__。
『え、あ、…う、うん』
「そっかそっか〜。じゃあ次……、…って…え゛?」
端正な顔立ちのまま目が点になっている。
「み、ほれてたの?…俺に?」
『ご、ごめん!』
「いやいや、ちょっと待って……。えぇ!」
嘘は言っていないけど、そこまで驚かれると…。そんなに意外だったのだろうか。私だって素直になるときくらいある。