マッサージ
何事もなく私達は2年生になった。
何も変化はない。あるとしたら身長の変化だ。成長期を迎えた徹君や岩泉君は、2人とも今年に入って5cmも伸びたらしい。もう175cm間近だ。
対して私はと言ったら本当に変化がない。ゆんちゃんは大人びた容姿が、更に大人らしくなった。はたから見れば高校生に見間違われてもおかしくないだろう。
さて、徹君といえば、更にイケメン度に磨きがかかってきていることで有名です。
去年は4ヶ月に1回くらいあった呼び出しという名の告白も、2年生になってからの3ヶ月だけで既に10人の乙女が気持ちを伝えたらしい。そしてバレー部のマネージャー候補が急増した。
監督は結局早い者勝ちの原則を使い、先に提出した2人をマネージャーとして採用することにしたらしい。
告白の結果は詳しくは分からないけど、彼女ができたなんて噂聞かないから、断っているんだと思う。ちょっとホッとした自分は、よっぽど徹君が好きなんだと思う。
そんな徹君とは今年はクラスが離れてしまった。挙げ句の果てに親友であるゆんちゃんとも離れてしまう始末だ。頼みの綱である岩泉君とも違うクラス。何人かのバレー部員は一緒だが、親しいというほどではない。
このクラスでうまくやっていけるか不安だったが、3ヶ月過ごしてみてそれが杞憂であったことに気づく。私は無事にクラスに馴染み、みんなと仲良くやっている。
このクラスで球技大会を終え(私のクラスの女子ソフトボールが優勝した)、もう夏休み目前だ。各部活が3年生最後の大会に向けて切磋琢磨している。熱い夏はこれからだ。
今日も今日とて休むことなく練習に励む。徹君のオーバーワークがそろそろ出てくるんじゃないだろうか。去年の様子から見て、諦める様子はなさそうだった。終わったらいっぱいマッサージしてあげよう。
「名前ちゃん……」
『なんでしょう徹君』
横たわり、うつ伏せになる徹君の横で膝立ちをする私。場所は体育館。
案の定オーバーワークの危険性があった徹君に、医者でもないがストップをかけた。
しかし自主練しているのは徹君だけではなかった。他にも岩泉君や、三年生の先輩が体育館に残っていた。しかしみんな軽い練習だったのに、徹君だけ本格的なジャンプサーブを練習している。なんで、こんなにも無理しちゃうかなぁ。
「イタイ、イダイ!!!痛いってば!」
私は太ももをあくまでもやさしーく揉んでいるだけだ。力はそんなに入れていないはずなのに、こんなに痛がるということは、やはり、無理をしている証拠だ。
『そんなに力入れてないんだけどなぁ。えい!』
「イダアアアアアアアア、痛い痛い!!え、本当に力入れてないの?これ!」
『うん、半分も力使ってないよ』
下でバタつく徹君を無視してマッサージを続ける。何もむやみやたらに揉んでいるわけではい。ちゃんとツボを抑えて揉んでいるつもりだ。
「絶対本気出してるでしょ!」
『徹君、こんなに無理してるんだよ!練習であんなに全力出してるのに、自主練でまた体に負担かけたら痛くなるに決まってるでしょ』
「岩ちゃんだって自主練やってるじゃん!」
『岩泉君は自己管理ちゃんとしてるから大丈夫なの!』
それでも抵抗を続ける徹君を押さえつけるのに精一杯だ。挙げ句の果てに岩泉君の名前を出してきた。岩泉君は自分の体のことをきちんと分かっているから、際立って心配する必要はないのだ。無理だと思ったらやめているけど、練習は手を抜いてない。
「イタタ、痛い痛い!……痛い、けど気持ちい?」
『でしょう、私本見てちゃんと勉強したんだよ。』
「え」
『徹君が無茶するから、…私に出来ることって何かなって考えたら、痛みを和らげてあげる事かなぁって』
太ももからふくらはぎを揉みながら優しく撫でる。頑張り屋さんの足はスポーツマンらしく筋肉質だ。
「俺のため?」
『うん。…あ、でも、徹君だけを贔屓するのもダメだよね!ちゃーんと他の人も見ないとダメだよね!そうだそうだ。うん。』
私ってば何を言っているんだろう。馬鹿だ、話せば話すほど墓穴を掘ってる。徹君に下心ありありの好意を見破られるのが怖くて、下手に誤魔化してしまった。
「嬉しいよ、ありがとう。できれば俺専門になって欲しいけど、さっきから岩ちゃんが羨ましそうにこっち見てるから、岩ちゃんにもやってあげて……ッブ!!」
「うるせー及川!何適当なこと言ってんだ!」
『徹君!!』
言葉の途中で飛んできたバレーボールは、うまい具合に徹君のお腹へ直撃した。私には当たらず、軌道を変えて何処かにどんでいった。ボールが飛んできた方向を見ると、物凄い睨みをきかせた岩泉君が徹君を睨んでいた。…岩泉君っていつも徹君に厳しいけど、きっとそれは愛なんだろう。
______その後、名前がマッサージの達人と言われるようになることは、この時まだ誰も知らない。
(あいつらいつ付き合うんだ)
(………さぁ、知らん)