願わずにいられない
及川side
文化祭当日。
なぁんか朝からパッとしないなと思っていたら、出会い頭に俺の体調が悪いのが即座にばれた。名前ちゃんはいつだってそうだ。一番に俺の内面の変化を見つけてくれる。そりゃ好きな子に自分の事を考えてもらえるってなにより嬉しいし、テンションがあがる。だけど、頭がグラグラする今は、いつもみたいにそう考えている余裕がなくて。名前ちゃんの休もうという提案を嬉々として受け入れた自分がいる。
誰もいないような場所に来た俺たちは校舎を背もたれにして、二人で横に並んで座って居た。しばらくこのままでいたい。確か、去年の球技大会の時にもこんな事があったような気がするなぁ。その時は俺の怪我が原因で、名前ちゃんに辛い表情をさせてしまった。もうできればあんな思いはさせたくない。
俺は少し気だるげに空を見ていた。うー、ちょっと気持ち悪いー。吐き気と脳がモヤモヤする感じに、顔を顰めた。
最近は主将として皆をまとめていかなければならなくて、正直疲れた。
『徹君、気分悪かったら寄り掛かって寝て良いからね?』
「うん」
気分が悪いときは誰かに甘えたくなるのは何故だろう。現に今名前ちゃんに甘えちゃってるもん。近くに感じる名前ちゃんに体を預けて安心する。目を瞑れば寝てしまいそうなくらいの心地よい風に、髪はさらさら揺れる。いいスポットだ。文化祭で浮かれている雰囲気の中じゃ、誰にもバレなそう。
すると名前ちゃんは無意識にだろうか…、俺の頭を撫でてくれた。あぁ…、気持ちー。やけに優しい手つきだ。名前ちゃんがお母さんだったらどんなに幸せだろう。でも俺が彼女に望むのはお母さんと息子という関係ではない。俺は彼女の特別になりたい。
「……俺、名前ちゃんに甘えっぱなしだと思う」
撫でられた頭を「もっと」と、強請ねだるように名前ちゃんに体重を掛けて押し付けた。意図を察したのか彼女は先程よりも強く撫でてくれた。少しだけ苦しみも和らいだ気がする。心地よすぎる風と手に気持ちまで穏やかになってきた。
『いっぱい甘えて良いよ。これって、一応ファンサービスになるんじゃない?』
「………」
ファンサービス?もしかして名前ちゃんは自分がファン1号だから一緒にいると思ってる?そんな理由で一緒にいるわけじゃないよ。そっと顔を上げて、間近にある彼女の顔を凝視した。まっすぐ見れば、軽く鼻先がぶつかる数センチの所に名前ちゃんの顔があった。視線を離せない。
このまま顔を近づけてしまいたい。近づけて想いを伝えてしまいたい。
『「……」』
世界が一瞬止まったかと思った。彼女の瞳には俺が映っていて、その逆も言える。少し照れたような顔が俺の中の何かを揺るがせた。
彼女が視線を反らすように瞳が閉じ掛けたと同時に唇に触れた。可愛い。君の全てが欲しい。
名前ちゃんが俺を途絶しないことをいい事に、さっきは触れるだけだった柔らかいモノが、今度は唇の先を使った、所謂バードキスに変わった。
今、触れている名前ちゃんが愛しいと思う。
今、この時間が俺にとっては幸せだと思う。
触れた部分から熱が離れていくと、合わさった視線を再び離さずにいた。いや、離せなかったんだ。その真っ直ぐな瞳から。それなのにその瞳はどこか揺らいでいる。まだ今の出来事をうまく把握できずにいるんだろう。
『これも、ファンサービス……?』
やっぱりそうだ。俺がファンだからという理由だけで名前ちゃんと一緒にいると思ってる。そんな生温い理由で一緒にいたくない。そんなの名前ちゃんに失礼だ。こんな気持ちのまま誤解されるなんて嫌だ。ちゃんと気持ちを伝えないと。
「俺…名前ちゃんが好きだよ」
今日、予定していなかった言葉が漏れる。
一年の時にも想いを伝えようとした。岩ちゃんに名前ちゃんが好きなことがバレて、それで球技大会で想いを伝えようと思った。だけど球技大会では彼女を喜ばせるどころか、悲しませてしまった。悲しませてるうちはまだ、俺は名前ちゃんを守れる男になっていないと感じた。だから、まだこの想いを閉じ込めようと決意した。
それなのに、最も容易く出てしまった告白に俺自身でも驚いている。
俺は想いを伝えた。だから名前ちゃんの返事を待つだけだった。
正直彼女が俺を嫌っているなんてことはまずないと断言できる。だが、恋の話となるとそれは別だ。もしただの友情としての好きなら、俺はこの恋を諦めなければならない。簡単に諦められる恋じゃないと分かっているのに。だけど諦められるほどの恋なら、そこまでだったと言うことだ。
諦めたくない。
俺はずっと君が好きだった。
お願いだから、俺の気持ちを受け入れて。