知っていく


『お疲れ様です。___お疲れ様です』


長い部活が終わって、次々に選手がドリンクを受け取りに来る。マネージャーの先輩方がドリンクを配る役目で、私たち新米はその様子を見守っている。改めてこう見れば人数が多い。

体育館は熱気に包まれ、その場にいるだけで汗をかいてしまいそう。

『及川君、お疲れ様!』

彼が来た途端に少し大きめになる声。

彼は私の知っている唯一の部員だからである。でもこういうことも少しは自重しなきゃいけないよなぁ…。及川君目当てで入部したと思われちゃうから。そう思われてからでは手遅れだ。


「名前ちゃんー、お疲れ〜。」

彼はニコニコ笑顔でこちらを見ている。練習の後だというのに、疲れを一切見せない涼しい顔つき。全ての仕草が上品で逞しい。

「おい、クソ川。早くネット片付けるぞ!」


すると何者かによって、言葉と同時に及川の後頭部めがけてボールが投げられた。い、痛そう!あんなに早い球を喰らった及川君はすごく痛そうな顔をしていた。


「イタッ!何すんのさ〜、岩ちゃん!」
「何すんの、じゃねーよ!ネットの片付けは一年の仕事だろーが!」
「ちぇー、せっかく名前ちゃんと話してたのにー」
「はいはい、分かった分かった。えっと…、苗字だったか。」

急に名前(といっても苗字だけど)を呼ばれて身体中に電撃が走る。何事!

『は、はい?』
「なんでそんな堅くなってんだよ…。別に怒るわけじゃねーって」
『が、がってん承知の助!』


駄目だー、何言ってるんだ私ぃ!がってん承知の助とか古すぎ!完璧に引かれたよね、コレは。
初対面の人に話しかける時は、大抵近くに友達がいるから場の流れで話すことができるんだけど、今回はどうもそれができない。

別に怖いとかそんなんじゃなくて、緊張する。


「がってん承知の助って……、アッハハハ!名前ちゃんオモシロ!」

案の定及川君に爆笑された。問題のもう一人の彼の方を見ると、堪えるように笑っていた。


「まぁ……その、なんだ。これから宜しくな」
『うん。こちらこそよろしくお願いします。』
「俺もヨロシクね名前ちゃん」
『よろしくお願いします…!』

とまぁ今日はこんな感じで、一人知り合いが増えました。

彼は頼りになるお兄ちゃんみたいだ。全てがしっかりしている。なんとなく及川君とは正反対の硬派な感じがする。喋り方もハキハキとしている。

名前は、及川君が岩ちゃんと言っていたこと辺りから推測すると岩太郎君かなんかだろう。随分ゴツい……、イヤ。逞しい名前だなぁ。



(ヨロシクね、岩太郎君)
(イヤ、俺岩泉だし)
(やっぱ名前ちゃんオモシロっ!)