好き嫌いの錯覚
「俺の視界に入らないでもらえるっスか?」
『言われなくなってそうする』
今日もいつものように喧嘩をする。だけどいつもとはちょっと違った。
涼太君の様子が変だ。
言葉そのものの威力は通常運行なんだけど。
だけど、態度が小さいというかしおらしいというか。なんだかいつもより元気がない気がする。
家に帰ったら理由を聞いてみよう。
彼の部活が終わったであろう時間帯。私は携帯を構えていた。
部活後はかなり疲れていることを見計らって、体調に差し支えがない程度に話をするつもりだ。
電話が繋がる。
《もしもし?》
『も、もしもし?涼太君?』
《名前、今日はゴメン。俺、全く思ってもないこと言って…》
『いいよ、私も酷いこと言ってるし。あのね、それよりね。』
《なんスか?》
私は涼太君に今日の不自然な点を聞いて見ることにした。あれからずっと頭につっかかっていたから。そんな元気のない涼太君なんか見たくないよ…。
『涼太君、今日元気なかったよね?』
2、3秒の沈黙。
《やっぱり名前には分かるんスね…》
『うん、何かあった?』
《実は昨日の名前の言葉、ずっと気になってたんス》
『昨日の言葉……?』
《うん。"早く付き合ってくれればいいのに"ってやつ。あれ結構胸に響いたんス。名前が本当にそう思ってる気がして》
私は言葉一つで涼太君を不安にさせていたのか。
『不安にさせちゃってごめんね!……私、そんな事思ってない。考えたこともないよ!』
《………名前がそう思ってなくて良かった。ちょっと安心したっス》
『思ってる……わけがないよ。』
震える声で伝えた。
私だけが不安なのだと思ってた。
涼太君も同じことを考えてくれていたのだと思うと心のもやが少し取れた気がした。
『ごめんね、大好きだよ』
《俺も、大好き。それじゃあ明日朝練あるから…》
『うん、お休み』
《おやすみ》
その夜は嘘かと錯覚するほど、死んだように深い眠りについた。