頼って欲しい恋人

俺には部活帰りにちょくちょく訪れる場所があった。

家からほんの少ししか離れていない、同い年の彼女の家。中学校からの長い付き合いの彼女はいつだって困ったように笑って俺を迎え入れてくれた。

『来てくれたの?涼太君』
「名前の部屋が一番落ち着くんスよ」


少しの間だけ、彼女の家に行くのをやめたことがあった。それは、彼女が俺の彼女だと噂が立った時。あの時は何とか誤魔化していたらしいけど、このままだったら名前が虐められる可能性があって、しばらく会うのをやめた時のこと。

それはそれはとても辛い期間だったことを鮮明に覚えている。


『涼太君は相変わらずウソが下手だね。やっぱり何かあったんでしょう?』

名前はもう前みたいにキラキラした笑顔を公に見せることは無くなってしまった。いつも悲しそうに、優しい笑みを浮かべる。その顔を見るたびにオレは泣きたくなるのだ。彼女にこんな思いをさせている自分が情けない。


「…心配なんス、名前のこと」
『平気だって言ってるのに』
「よく言うっス…全然平気そうな顔してない癖に」

名前は素直で純粋で、とにかく脆い。オレが触れたら壊れてしまいそうな程に。そんな彼女が傷付いているのを放っておけるはずが無かった。

こんなにも名前が好きだというのに恋人同士だということを偽り、暴言をはいてまでくらさなきゃいけないこの現状。全く嫌になるっス。


『心配してくれてありがとう。涼太君は大丈夫?』
「もちろんっス!」

名前の心からの笑顔が見たい。楽しそうに、幸せそうに笑う名前が見たいのに。今の頼りないオレでは彼女を笑顔にすることは出来ない。

俺は目の前にある彼女の細い体を抱き締める。

『大好き』
「俺も大好き」

彼女の痛々しくも美しい笑みはゆっくりと崩れ、それはぐしゃぐしゃな泣き顔に変わった。

『涼太君…、ありがとう』

耳をすませなければ聞こえないくらいの小さな声。ポロポロと涙をこぼす名前の頭を優しく撫でる。

ごめん、俺が頼りないから彼女を泣かせてしまうんだ。
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