誰も結末なんて分からない
結局、話の続きを言うタイミングが掴めないまま1ヶ月が経過した。この1か月間、放課後はお互いに部活があったし、彼女と会う機会がほとんどなくて、会ったとしても授業の移動教室ですれ違うことしかなかったからか、言葉の続きを言うことができなかった。
名前が俺から離れていってからもうそろそろで3ヶ月が経とうとしている。つまりはもう3ヶ月も彼女と一緒に登下校していないことになる。小学校から中学校までは時間が合う限りほぼ一緒に過ごした。それが当たり前だったからか、今彼女が隣にいないことに違和感しかない。
彼女は高校生デビューとでもいうように、殻を破り新しい世界へ足を踏み入れている。容姿は割と前のままだが、雰囲気が大人びて見える。
偶々部活が早く終わると、帰り道からサッカーグラウンドが見える。そして全く無意識に彼女の姿を探す。遠くから見える彼女の動きに微笑ましく思うと同時に、他の男が彼女に近づくことが嫌だと思う。つくづく自分に呆れる。
これでは俺が名前を好きだと言っているようなものじゃないか。
俺が彼女を好きになるなんて考えたこともなかった。違う、この表現には大きな語弊がある。好きになると考えたことがなかったのではなく、物心がついた頃からずっと彼女が好きだったのだ。
好きという気持ちしかないまま、彼女と過ごしてきたからか、その感情が特別な意味を持つものだと気づかなかったのだ。幼馴染という立場に甘えて彼女のそばにいた。
そんな彼女はもう、俺の隣にはいない。
奪えるものならサッカー部から奪ってしまいたい。
例えば、彼女がサッカー部を辞めざるを得ない状況を作り上げるとか。それが成功するなら俺は相当な策士ということになる。できっこない。何故ならば方法が思いつかないからだ。誰も傷つかずに解決できる方法があるのなら今すぐにでも実行したい。
ずっとフィールドの方を見ていると、彼女が俺の存在に気づいたらしい。他の男と話しているにも関わらず、俺の元へ駆け寄ってきたのだ。今は休憩中だろうから、比較的行動は制限されないはずだ。なんだろうか、この高揚感は、優越感は。それと同時に独占欲も増す。彼女は俺だけの存在であって欲しい。
『京治君ー、今日部活は?』
「今日はミーティングだけだったから、早く帰れるんだ」
『おぉ、いいなぁ』
また無邪気に笑うその全てに触れたくて堪らない。
「ねぇ」
『んー?』
「明日の朝、久しぶりに一緒に登校しない?」
『…………!』
それは、ほとんど後先考えずに出てきた言葉だった。彼女の姿を見ていると、自然とその言葉が出てきた。
『あぁ、えぇっと、その、……うん』
自分は自立しなければならないという使命感からだろうか、素直にうんという返事は聞けなかった。
「じゃあ、また明日」
『うん、またね』
学校でまたねと言ったのはこれが初めてだった。何時もは一緒に帰って互いの家の前で別れを言っていた。どんどん別れを言う距離が遠くなっている。もし、結婚をしたらさよならなんて言わなくても済むのに。
そこで、自分が意外と女々しい考えを持っていると気づいた。どれもこれも彼女を想う時だけだ。昔から厄介な存在であるのには変わりない。
しかし厄介だと思うのと同時にとても愛しく思う。
そして、自分がいかに独占欲が強い人間なのかということが分かった。