社会人
私たちは付き合おうだとか、好きだとかいう言葉もないまま同棲してしまっていた。
同棲なんてそう簡単に決められることではないと分かっている。しかし、同時に聖臣ならいいかなと思ってしまっている自分もいた。
なんだかんだ言って頼りになるし、何よりも彼の隣で、私は私らしく生きることができた。この時にはすでに、彼なしの生活は考えられなくなっていた。
だから同棲しても状況が変わるわけではないと知っていた。
互いに恋人もいないため、同棲をしてもなんら問題はない。しかし聖臣は有名バレーボール選手であるため、世間体を気にしなければならない。
なんの変哲もない私なんかといる聖臣が悪く言われなきゃいいんだけど。
ある日の何気ない一日の中で聖臣と一緒にテレビを見る機会があった。
今特集されているのはブライダルについて。
映像には綺麗なウエディングドレスを着たお嫁さんが、最高の笑顔で夫となる人を見つめていた。
それは女の子であれば誰もが憧れるようなワンシーンだった。
『いいなぁ、お嫁さん』
意図せず漏れた言葉は、聖臣に届いていたらしい。
私だってあの純白のドレスを着たい。そう強く思った。似合わなくてもいい、ただその日を迎えるだけで良い。
「何が」
『お嫁さんになりたい…。あんな風に綺麗じゃないかもしれないけど、ウエディングドレスも着たいなぁーって』
「…へぇ」
『私には暫く無理そうかなぁ〜』
なんて笑い飛ばした。今の私には恋人もいないから到底無理な話だ。
「………。」
『いつか私のことを大切にしてくれて、私も大切にしたいって思う人が現れたら、どんなに幸せなんだろう』
言葉にしてみると虚しい。その大切にしたい本人が目の前にいるというのに、遠回りで言えない。この想いを直接言うことができたらどんなにいいだろう。
「さぁな」
『なんか反応薄くない?』
「…普通だろ」
『ううん、なんかいつもと違う』
何年一緒にいたと思ってるんだ。聖臣の変化には人一倍敏感である。
『聖臣、もう大切にしたい人、…いるの?』
「……いる」
24年間生きてきて、その2文字が一番私を混乱させ、驚かせた。
聖臣に女っ気があったことは一度もない。その事実によって油断していたのだ。
『いる、の?いつから?』
「…ずっとだよ。俺の気持ちに気づかねぇ馬鹿だけど」
聖臣との付き合いが長いのは、家族を抜いたら間違いなく私が一番だ。どんな友達にも負けていないと思う。
なんで気づかなかったんだろう。
『大切にしたい人に向かって馬鹿って!』
もう気持ちをどこに納めればいいか分からなくて、笑ってごまかすしかなかった。
気持ちを抑える時間がほしい。
「うるさい、アホ、馬鹿」
『…私に言うんならいいけど』
どうしよう泣きそうだ。
「……最初から名前にしか言ってねーよ」
聖臣は不器用だけど、自分の気持ちには正直だ。嘘はつかない。もし、その大切にしたい人が私だったら?
その可能性を全く考えていなかった。かつての私がそうだったように、家族のような存在だと思われていると思いこんでいたからだ。
『あの、それって、えっと…』
「もう言わないからな」
『……期待していいやつ?』
この流れだとそうとしか考えられない。
「自分で考えろ」
『じゃあ期待するよ?」
「…勝手にすればいいだろ」
こうして私の名ばかりの片想いに終止符を打ったのだった。