夫婦
バレーボール選手の佐久早と言えば、最近結婚したことで有名である。
エースが24歳と言う若さで結婚をしただけでも話題になるが、相手が長年付れ添った幼なじみという一途な面があるという事も大きな話題になった。
そんな結婚相手である名前は今、佐久早と向き合っている。表情はいつもと違い固い。
『聖臣、大事な話がある』
「なに」
『驚かないでほしいの』
そう言えば彼女は佐久早が驚いたところを見たのなんて数えられるほどしかない。
『あぁ、えっと。その、ね』
「早く言えよ」
『うん、ちょっとまって。その…さ、あぁー!いざとなったら言えない…!!!」
必要以上に混乱する名前に、顔をしかめる。この様子からして別れ話ではない事は確かである。
彼女は深呼吸をして、心の準備をしている。
『喜んでくれるか分からないけど、さ。…聞いて欲しい』
「………。」
『赤ちゃんが出来ました』
「はぁ?」
心の準備が追いつかなかったらしい。佐久早は自分でも動揺しているのが分かった。
『ここに、赤ちゃんがいます』
「……嘘じゃないよな」
『…本当だよ、…まだ男の子か女の子かは分からないけどね』
お腹をさすりながら、幸せそうな顔をする表情。
『嬉しく、ないかな』
「…嬉しくない、わけが、ない」
試合では常に落ち着いている、日本のエースは、彼女の前では素をさらけ出す。
「名前は?」
『まだ早いよ』
「妊娠すると気持ち悪いって聞く」
『今は大丈夫』
「もう家族に知らせたのか?」
『それもまだ。聖臣に一番に知ってもらいたかったの』
返事をする彼女は何処までも幸せそうだ。
『後は質問ありますか?パパ』
嬉しいと思ってもそれを言葉で上手く表現できない佐久早は、彼女を引き寄せ、そのはにかむ唇にキスをした。しっかりと合わさった唇が、言葉で表現できない気持ちを伝えているようだった。
「1人で外に出かけるなよ」
『じゃあ聖臣がついてきてくれる?』
「俺だって暇じゃない」
『…私どこにもいけないじゃん!』
「…暇だったら連れていってやる」
『ありがとう』
心から抱きつきたくなって、思い切って彼の腰に手を回すと、一瞬動きが止まった。そして数秒すると、温かい抱擁が降り注いだ。
『聖臣と結婚できて良かった…』
「よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
『言いたいよ、こんなにも特別な日くらいは…!』
やっぱり佐久早は言葉にしてくれない。
再び唇が触れあったとき、改めて幸せを実感するのだった。